優勝に食い込む力は十分

オフにFA権を行使せずに残留した西川。今季のキーマンだ
「育成と勝利」を両立させることは、難しいミッションだ。4年連続Bクラスに低迷している
広島は、
新井貴浩新監督にチーム再建を託した。今季の順位予想で下馬評が決して高いとは言えない。だが、他球団の首脳陣は警戒を口にする。
「新井監督は厳しさと温かさを持ち合わせているリーダーです。近年は低迷していますが、決して投打でタレントがいないわけではない。若手、中堅、ベテランがうまく組み合わせれば優勝争いに食い込めるだけの力は持っている」
2016~18年に球団史上初のリーグ3連覇を達成したとき、新井監督も現役の選手でチームを支えた。月日を経て、当時主力だった選手たちに陰りが見え始めている。遊撃の
田中広輔は
小園海斗にレギュラーを奪われる形となり、
會澤翼もコンディション作りに苦労して昨季は98試合出場にとどまった。当時のレギュラーで現在も第一線で活躍しているのは、二塁で歴代最多の10年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞した
菊池涼介ぐらいだ。
新井監督の決断は早かった。昨季は三塁が主戦場だった
坂倉将吾を捕手に。
羽月隆太郎、
矢野雅哉も内野のレギュラーを狙い、モチベーションが高い。来日2年目の
ライアン・マクブルーム、新外国人野手の
マット・デビッドソンが機能すれば破壊力十分だ。また、
秋山翔吾、
野間峻祥、
西川龍馬の外野陣はリーグ屈指と言えるだろう。メジャーから昨季途中に日本球界へ戻ってきた秋山は心身の状態を整えれば、首位打者の有力候補になる。天才的な打撃センスを誇る西川にも同じことが言える。西川、野間は昨オフにFA権を行使せずに、新井監督と共に戦うことを望んだ。もちろん、3人のレギュラーが確約されているわけではない。内外野守れる
上本崇司、プロ2年目の
末包昇大、
中村健人らもアピールに必死だ。
機動力アップが課題
課題は機動力だろう。昨年はリーグ2位の552得点を叩き出したが、26盗塁はリーグワースト。機動力が売りだったチームの伝統を考えると、少なすぎる。1点を争う試合では盗塁を含めた走塁が試合の明暗を分ける。野間、小園は20盗塁を狙ってほしい選手だ。
投手陣は右肘手術から復帰を目指す
森下暢仁が開幕に間に合わない可能性があり、右足関節骨折からリハビリを経て復帰した
床田寛樹も無理をさせられない。
遠藤淳志、
玉村昇悟、
森翔平ら若手成長株が一本立ちできるか。ドラフトで即戦力として獲得した社会人出身の
益田武尚、
河野佳、
長谷部銀次の起用法も注目される。
球界重鎮OBも期待
オフに目立った補強を敢行しなかったため、地味に映るかもしれないが、チームは大きく変化する可能性を秘めている。
野球評論家の
廣岡達朗氏は、週刊ベースボールのコラムで新井監督に期待の思いを綴っている。
「広島の新監督に就任した新井貴浩は見どころがある。彼は就任会見で『ファンの方々が見ていてワクワクするようなチームにしたい』『コーチ陣に求めること? 勝つためにどうしていくのかということを考えてもらいたい』『カープの伝統として猛練習があるので量も質も追いかけていきたい』とコメントしていた。私の時代は会見で記者がヘタな質問をしようものなら『もう少し野球を勉強してこい』と一喝した。しかし、新井監督はそんな質問に対しても『なかなか難しい質問ですね』と優しい答え方をしていた。初めて監督に就任すると、監督になること自体に満足して喜んでいる人間もいるが新井は違う。自分が監督になったらこうしようという一つの理念、物語を持っている。実際に秋季キャンプに入ると、現場をきちんと見ていた。あれが本当の監督である」
23年のチームスローガンは「がががががむしゃら」。広島がセリーグに旋風を起こせるか。
写真=BBM