長くテレビ・ラジオで野球実況にも携わる中で、さまざまな野球の音に触れてきた。たくさんの音を感じるたびに、野球というスポーツがますます魅力的になっていく。そして、その魅力を視聴者に届けるのも仕事の一つ。音が見せる印象的なエピソードの数々を、坂上俊次アナウンサーがつづる。 文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=本人提供 坂上俊次[中国放送アナウンサー]
開閉自在な放送室の窓
2024年シーズン開幕戦、横浜スタジアムの放送席の前面はスライド式で開閉できるようになっていた。球場内は音響や花火などエキサイティングな演出が満載だ。場内アナウンスも興奮を誘ってくれる。もちろん、その中心は、ベイスターズの本拠地最多となる3万3312人の声援の厚みである。
余談だが、東京ドームや神宮球場はシャッター式になっているので、放送中は開けっぱなしである。ファウルボールが飛び込んでくることもあれば、ファンが手を伸ばし、解説者にサインを求める姿も目にしたことがある。甲子園球場はスタンドのど真ん中に位置している。音も視界も、遮られることはない。マツダスタジアムは、ガラスで仕切られたままになっている。
さて、開閉自在の横浜スタジアムだ。窓の開閉は実況アナウンサー個々の判断に委ねられることが多い。
どちらがいい悪いではない。開放されていれば場内の臨場感がビビッドに伝わってくる。ただ、コンビを組む解説者の声やディレクターの指示が聞き取りづらい。締め切ると、放送席のコミュニケーションはスムーズだが、興奮の温度感を肌で感じ取りづらい。空調や風の吹きこみも考えれば、その一長一短に優劣はつけられない。
「ほとんどのアナウンサーさんは、窓を開けてしゃべっていますよ」
初対面のベテラン音声スタッフが、真新しい放送席に戸惑う私に声を掛けてくれた。試合は、ベイスターズのゴールデンルーキー・
度会隆輝のホームランに沸き、
九里亜蓮(
広島)と
東克樹(
DeNA)の力投に息をのみ、地元チームの勝利の花火が春の夜空にこだました。
テレビ・ラジオで野球実況を始めて25年目のシーズンが始まった。つくづく、野球は音のスポーツだと実感した。
音への関心を深めるようになったきっかけがある。2009年、マツダスタジアム開場の年である。私たちが勤める広島の放送局は、まさに「バブル」の様相であった。特番ラッシュ、イベントラッシュ、野球中継の視聴率は上昇カーブ。しかも、ここから・・・
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