50メートル走6秒0、遠投120メートル。好きなプロ野球選手はソフトバンク・今宮健太と、右投げ右打ちの遊撃手の進路志望は「プロ一本」である。春先からNPBスカウトの評価も急上昇中だ。故郷・石川のために、高校野球で力を与える。
取材・文・写真=沢井史

基本動作を反復

　自校の攻撃が終わるとベンチを一目散に飛び出し、齋藤大翔は誰よりも早くショートの守備位置に就く。金沢高のモットーでもある「全力疾走」を常に重んじ、遵守。生真面目な主将らしさがにじみ出る姿勢である。武部佳太監督は言う。

「野球は守備と攻撃があります。たとえ良い攻撃ができたとしても、守備は別物。攻撃が終わればしっかり切り替えて、良いも悪いも引きずらずに守備に入ることが大事です。細かい動きに少しでも浮き沈みがあると、プレーにスキが生まれる。対戦相手もそういうところを突いてくるし、(プロのスカウトも)プレーだけではなく、そんな動きから見ているんだよ、と本人には話したことはあります」

　高校入学直後の1年春の県大会から遊撃手として先発出場を果たし、早くから守備力の高さは周囲から一目置かれる存在だった。それでも齋藤自身は「中学時代から足は周りより速いほうでしたが、ほかの要素はそこまで自信はなかった」と明かす。この2年半で最も成長できたと自負しているのが守りだ。金沢高では入学時から、基礎練習を大事にしてきた。手で転がしたボールの捕球練習やキャッチボールなど、細かい動きについても無駄がないか、指導陣が念入りにチェックする。冬場、外で練習ができない時期も、基本動作を徹底的に繰り返してきた。

「とにかく基礎に関しては、口うるさく言います。3年生になろうが当たり前のことを指摘することもあります」と武部監督。毎朝、約1時間行う朝練でも、守りの形を体に染み込ませる。そんな日々の積み重ねで堅実な守備力が磨かれた。

　齋藤の評判は、下級生時からじわじわと広がっていた。1学年上の188cm、97kgの右のスラッガー・山田真比呂(現白鴎大)が注目を集め、NPBスカウトが山田を視察するため、グラウンドを訪れる機会が増えた。そんな中、内野を守る齋藤を見て「あの選手は・・・