8年連続で100試合以上に出場し、3度のリーグ優勝へ導いた精神的支柱の司令塔・甲斐拓也が巨人へFA移籍。キャンプから始まった激しい競争を勝ち抜き、首脳陣や投手陣の信頼をつかんだ正捕手は、リーグ1位のチーム防御率を記録した投手陣を支え、連覇へ導いた。 取材・構成=壁井裕貴 写真=湯浅芳昭、桜井ひとし 
「勝ち試合での途中出場は、いつも以上に変なミスをしないことに気を付ける」
心の余裕が攻守に好影響
本拠地で行われたロッテとの開幕カードはまさかの3連敗。37年ぶりの出来事でスタートダッシュに失敗すると、悪い流れを断ちきれず5月1日には借金7の単独最下位。主力野手の離脱など、チームが空中分解しそうな中、高い投手力を前面に浮上を果たした。交流戦が始まる前に借金を返済し、勢いそのままに交流戦優勝を決めると、リーグ戦再開後も勢いは変わらず、リーグ屈指の投手陣を巧みにリードし、チームを優勝へと導いた。 ──1年間、主戦捕手として試合に出場しての優勝です。
海野 チームを勝たせられるようにという思いは、去年よりも強くなりました。結果として優勝につながったので、よかったです。
──今季、長年正捕手を務めた甲斐拓也選手が巨人へ移籍しました。海野選手への期待は大きかったと思います。プレッシャーなどは感じていましたか。
海野 シーズン最初のほうはかなり感じていました。周りから言われることもありましたし。自分で勝手にプレッシャーだったりをつくっていただけかもしれませんが。
──プレッシャーが多い中で、試合に出続ける大変さがあったと思います。
海野 そうですね、まったく違いました。昨季は少なくても1週間で6試合のうち1試合は出ていましたが、今季は6試合中5試合に出場。ずっと出続けないと、分からないことを知れました。
──改めて甲斐選手の偉大さを痛感しましたか。
海野 もう本当にすごいなと思います。1年間試合に出て、より肌で感じました。本当にすごい。試合に出続けることももちろん大事ですけど、その中で年間を通して計画を立てることの難しさを知りました。特にホークスは、常に優勝することが求められるチームなので。
──日本一を目指すチームだけに海野選手に求められる基準は高くなりそうです。
海野 あとは周りと比べられたりすることも多く、開幕して数カ月はプレッシャーや人の目を気にしていました。
──いつごろから、そのようなプレッシャーや人の目が気にならなくなりましたか。
海野 明確には、はっきりと覚えていませんが……6月の交流戦ぐらいですかね。自分の中である程度「これだな」というのが見つかりました。自信がついたことで、自分のことに集中できるようになりましたね。
──具体的にどんな変化がありましたか。
海野 自分で先発投手を勝たせられるようになったということですね。ゲームをつくるという言い方が合っているのか分かりませんが、試合全体のことを考えられるようになりました。最初のころは、先発でも目の前の1イニング、1イニングを抑えていくことに必死でした。しかし今は、例えば7回2失点という感じで、試合をトータルで見られるような余裕ができましたね。
──その中で気を付けていることは。
海野 一番は根拠を持って投手に伝えることですね。対戦打者の傾向、前回の対戦などさまざまなデータがあります。「こういうのがあるから大丈夫」と投手に納得してもらえることを意識しています。もちろん打たれることはありますけど、たとえ打たれたとしても、納得してもらえるように根拠を持つことを心掛けています。
──ホークスの選手は、データ、数字に対して強いイメージがあります。
海野 もちろんデータも大事ですが、データだけがすべてではありません。自分がマスクをかぶってみて、グラウンド上で感じたことも混ぜて伝えるようにしています。
──そうなると、シーズン最初のころはとても大変だったのではないでしょうか。
海野 そうですね。データもないですし、去年の経験もありませんでしたから、とても大変でした。
──試合前の準備は、シーズンが進むにつれて、コツをつかんできたという感じですか。
海野 コツというよりも、現場に出て、経験とデータを混ぜて根拠が持てるようになったのが大きいと思います。特に試合に出ないと感じられない部分。それは、どれだけデータがあっても、補いきれないところでもあるので。
──より多くの試合で出場を重ねることで、自信がついてきた。
海野 そうですね。メインで試合に出れるようになって、試合中のバッターの反応や試合展開の雰囲気は自分があそこでマスクをかぶったから分かること。その日によって、ピッチャーのいい球は全然違うので。本当にその試合の中での雰囲気を大事にしてます。
──打撃でも生かされていることはありますか。
海野 7月、8月ぐらいから相手捕手や投手の傾向も頭の中に入れて打席に入れる余裕が出てきました。また、試合中であれば、相手投手の首の振り方だったりとかで球種を予想したりもしています。
──海野選手が捕手だからこそできることですね。
海野 そうですね。自分が捕手だからこそできることだと思います。
──9月の打撃成績がいいのは、試合に出続けてきた経験が生きているのですね。
海野 それもあります。感覚としては6月後半ぐらいから、よくはなっていました。構え、バッターボックスの立ち位置と自分の中でガラッと変えたのが大きいですね。9月に関しては、相手捕手の考え方と試合の展開を踏まえて、こういう攻め方をしてくるだろうな、と考えられるぐらいに余裕ができたっていうのもあります。
ゼロで抑えて終えること
絶対的な司令塔の甲斐が抜けた今季は、投手との相性による役割分担が基本となった。しかし、僅差でリードしている試合終盤になると、背番号62がホームを守っている。ベンチスタートであっても、27個目のアウトを取った勝利の瞬間にグラウンドに立っている。 ──今季は勝っている試合での途中出場が増えました。やはりスタメンで最初から出るよりも難しいですか。
海野 スタメンで出るよりも途中で出るほうが、格段に難しいですね。体も先発出場のように試合の最初から動かしているわけじゃないので。あとは勝っている展開で行くというのは、本当に負けちゃいけないので。勝ったまま試合を終わらせることに対するプレッシャーはもちろんあります。
──プレッシャーが大きい中で意識していることは何ですか。
海野 一番大事にしているのは、スタメンで出場する以上にしょうもないミスをしないことです。
──逆に変わらないことは。
海野 自分の中では根拠を持ってサインを出すことです。もちろん打たれることはあるんですけど、それ以前にミスしないとか。先発投手同様、やっぱり勝ちパターンの投手も相手は研究しているんで、今までの対戦含め、というのは頭に入れながら試合に出ています。
──その中で、今季は勝っている場面、特に7回の勝ちパターンから出場することも多いです。試合中の準備はどんなことをしていますか。
海野 自分の場合、試合中に体をよく動かすことはあまりしません。どちらかと言うと準備は試合前ですね。プロ野球は基本的に同じチームとの3連戦です。そうなったとき、3試合でどういう攻め方をするのか、1試合ではなくカード全体を考えることが準備になります。
──途中出場の場合、リズムをつくるのも難しいと思います。どういったことを意識されていますか。
海野 中継ぎにはリズムはありません。先発であれば、もちろんリズムとかありますけど、7回以降に出てくる投手に関しては、ゼロで帰ってくることだけです。特にシーズン終盤になれば、最後に勝てばいいので。
──
前回のインタビューでは、「勝っている試合の途中で出ることは信頼の証し」と言っていました。1年間通してみて、コーチだったり、同じ選手に言われた、心に残っている言葉はありますか。
海野 うーん、特に言われてないですね。「頑張れ」くらいですね(笑)。

9月18日の日本ハム戦[みずほPayPay]で5回から途中出場し、9回を三者凡退で退け、杉山一樹とガッチリ握手
──シーズン前は、100試合出場を目標にしていました。実際に出場してみて、どうでしょうか。
海野 シーズン前に目標設定をしますが、とりあえずシーズンが終わってから振り返りたいです。もちろん試合数は、目にはしますけど、9月以降は目の前の1試合1試合が特に大事になります。本当に勝つだけということしか考えてないですね。
──1年間試合に出続けてみてどうでしょうか。
海野 体はきついですけど、この時期にこれだけ試合に出させてもらってるっていうのは、去年だったら考えられません。楽しむことはできないですけど、幸せに感じていますね。
──リーグ優勝の次は、CS、日本シリーズが待っています。
海野 ポストシーズンは初めてなので想像できないですね。
──去年の日本シリーズで2試合に出ていますが、それでも初めてというのは。
海野 日本シリーズは去年1試合スタメンで出させてもらったぐらいなので。ポストシーズンで全試合に出るというイメージは正直湧いてないです。
──それはレギュラーシーズンでもカードの頭から考えることの難しさを改めて知ったからですか。
海野 そのとおりです。ポストシーズンの独特の雰囲気で、実際にグラウンドに立ってみないと、いざ行ってみないと、どういう気持ちになるのかが分からないですね。
──今季は立場が変わるという中での出場となります。最後に意気込みをお願いします。
海野 レギュラーシーズンとは違い、短期決戦のトーナメント式です。アマチュア時代に経験はしていますが、負けたら終わりではないけど、それぐらいの気持ちを持って戦っていました。本当に試合数が少ないので、一戦必勝、特にシリーズ第1戦目は大事にしていきたいと思います。

9月27日の西武戦[ベルーナ]で優勝後、バッテリーコーチらと記念撮影。海野隆司[手前中央]、谷川原健太[同左]、嶺井博希[同右]の3人がシーズンを通して主にマスクをかぶりチームをけん引した
PROFILE うみの・たかし●1997年7月15日生まれ。岡山県出身。174cm84kg。右投右打。関西高で2年夏に正捕手として甲子園に出場する。その後東海大に進み、2020年にドラフト2位で
ソフトバンク入団。1年目の20年に一軍デビューすると、21年にプロ初安打を記録した。5年目の昨季は、自己最多の51試合に出場し、38試合でスタメン出場を果たす。6年目の今季は、開幕2戦目からスタメンでマスクをかぶり、9月25日に目標の100試合出場を達成。扇の要としてチームをけん引した。