兵庫・小野高、慶大で活躍し、東京六大学リーグ戦では早大・和田毅(ソフトバンク)と真剣勝負を演じた元フジテレビアナウンサーで現スポーツアンカーの田中大貴は、1980年生まれの「松坂世代」の1人。そんな野球人・田中が、同年代の選手たちをプロ野球現場の最前線で取材した至極のエピソードを、コラムにして綴る連載第25回です。 3年春のセンバツでは1回戦敗退も「一番・遊撃手」で出場し、先制タイムリーを放っている
地方の公立からプロへ。まさに私の理想の形
22年前の夏の終わりの打球音と、見事な放物線が今も忘れられずにいます。兵庫県西宮市、関西学院大野球部のグラウンド。バットがボールをとらえた瞬間、あっという間に左中間へ。次の打球も、その次の打球も。まるでリプレー映像でも見ているかのように、快音とともに外野の間を抜けていきます。打撃フォームは美しく、しなやか。均整のとれた体つきの彼は、シートノックでも動きは軽快で、肩の強さも抜群でした。
「あれは誰?」
「どこの高校?」
「すごいな、あのショート」
「打球が全然ちゃうやん、あのバッター」
練習会に参加していた高校球児たちがこぞって、こんなリアクションを見せていたのをよく覚えています。高校3年生だった私も夏の大会が終わり、同じ練習会に参加していました。報徳学園高をはじめとした関西の強豪校の有力選手らが顔をそろえていたものの、私が最もインパクトを受けたのが彼の打撃と守備でした。驚いたというより、感動した。そんな印象でした。
「あの選手は誰ですか?」と関西学大関係者に聞きに行くと、「あれは福岡の進学校、東筑の
井生崇光という選手だよ。プロも注目する選手」と教えてもらいました。
胸に「TOCHIKU」と書かれた白とえんじのユニフォーム。福岡県でも指折りの進学校であり、公立高校でありながら県内有数の野球強豪校。「とうちく」の「いおう」。校名も、苗字も当時は読めませんでしたが、このまま互いに大学に進めば、どこかで彼に会うのだろうと思っていました。
しかし、井生は大学には進学せず、その年のドラフトで・・・
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