創部以来、九州地区を勝ち抜いた経験はないが、強豪チームを相手に互角の戦いが増えてきた。二大大会への道のりは依然として険しいが、徐々に目的地の輪郭はとらえられている。新監督の下、新風を吹かせる日が近づいている。 文・写真=小林篤 TEAM DATA [所在地]沖縄県うるま市
[創部年]2008年
[出場回数]都市対抗 なし 日本選手権 なし

新チームで主将を務める福元信馬。大卒4年目を迎える左打ち内野手
昨秋は代表決定戦に進出 選手も確かな変化を実感
沖縄の中心地・那覇市から車を走らせること1時間超。通勤ラッシュの大渋滞に巻き込まれながら向かった先はうるま市・与那城総合運動公園内の野球場。地面から伸びた防球フェンスは高さ約3メートル、観客席は見当たらない。プロ野球春季キャンプでにぎわった南国の2月。環境は違えど、エナジック野球部も同じくシーズンインに向け準備を進めていた。
顔の上半分を覆う大きなサングラスを着用し、二塁ベース後方で紅白戦を見守る男がいた。名は
糸数敬作。2007年から13年まで
日本ハムでプレーした元NPB戦士だ。23年にエナジックの投手コーチに就任すると、昨年10月に監督就任。08年の創部以来、二大大会の出場経験がないチームを率いるが、「ものすごく楽しみです!」とその瞳の奥には選手が躍動する未来が想像できている。
全国舞台は目前に迫っている。昨年9月に行われた日本選手権九州地区予選では、第二代表決定戦にまで駒を進めた。第一代表トーナメント3回戦で0対9と大敗したホンダ熊本と再戦し結果は2対5。初の本大会出場こそ逃したが、全国レベルの強豪相手に好勝負を演じた。同年5月下旬から地元・沖縄で開催された都市対抗九州地区二次予選では1回戦でJR九州を延長11回の末、10対6で撃破。続くホンダ熊本戦は0対3で敗れたが、新監督は戦いを通してチームの成長を感じている。
「今までは悪く言えば戦えないレベルでした。『挑戦者のつもりで行け』という声しか掛けなかったんですけど、『こうやれば勝てるぞ』というレベルまでは来ているとは思います」

早朝のノックから活気ある声がグラウンドに響いた
県予選を突破しても九州地区大会で力の差を痛感することが多かった。「エースピッチャーが投げてこなければいいな」という弱気で試合に臨んでいた。だが、戦うごとにその差が少しずつ縮まってきている。
もちろん善戦で終わるわけにはいかない。目指すは勝利の2文字だ。県内のライバル・沖縄電力や九州の強豪チームを倒して全国大会へ──。指揮官は監督就任後、まずは意識改革に取り組んだ。「一つのだらっとしたプレーも許さないものをつくろう」と守備位置までは全力疾走で就くなど初歩的な部分から見直した。「メンバーもそろっている相手が10の練習をしていて、こっちが5や6の練習では勝てるわけがない」。目に見えて選手は変化している。今まではダラダラと時間が過ぎていたものが、練習がより密度あるものへと変わってきた。

ワンプレーにかける思いはより強くなった。ベンチからも指示、指摘の声が飛び交う
急がば回れで鍛えていく。糸数監督は監督就任後、選手に対してまず「無駄なことをたくさんするよ」と伝えた。現役時代は中部商高から亜大へ進学。「地獄のような場所でした」と笑って振り返る大学生活でハードな練習を繰り返し、プロへの扉を開いた。「選手は『どれが質がいい』などを言うのですが、そもそも何が質がいいか悪いかは、莫大な量をやった人しか語れないんです。無駄をやってこそ無駄だと分かる。だから『無駄をたくさんやるよ』と。『最後には効率がいいものが出てくるから』と伝えました」。
監督の思いは選手の心に確実に届いている。変化を感じているのは、新チームから主将を任されている福元信馬(明星大)だ。準優勝した昨年11月のRBC杯では首位打者賞を受賞。主に一塁を守る左の好打者は「練習を迎える前には『どういう意識で、どういう意味で今日を過ごすのか』。野球以外の時間もそうですけど、一つひとつ突き詰めてできている実感があります。一人ひとりの意識は大きく変わりました。まだまだ良くなるとも思っています」と語る。あとは公式戦で結果を残すだけ。「無駄だらけかもしれないですけど、最終的には勝ちます」と糸数監督は言い切る。

指揮を執る糸数監督は意識改革によるチームの変化を感じている
全国大会で勝つために県全体で底上げ図る
社会人野球はロースコアで僅差の戦いが多いのが特徴。投手陣の安定は勝利への重大要素となる。投手出身の指揮官が「彼が中心になってくる」と名を挙げたのは左腕・宮城凌我(ノースアジア大)だ。投手陣は宮城のほか、右腕の大嵩博斗(富士大)に加え、「戦力になる選手が入ってきた」と指揮官が期待を寄せる新人投手が続く。正捕手の佐久田英尚(仙台大)が複数投手を巧みにリードし、相手打線をかわしていくのが理想的展開だ。
エース・宮城は新人年の昨季、先発ローテーションの一員としてマウンドに上がった。「真っすぐの強さは強みだと思いますし、その強さでしっかりアウトコース低めを狙えるのが良さ」と語る直球は最速147キロ。複数のNPB球団も注目する今秋のドラフト候補だ。昨年は5月のJABA九州大会で日本生命を相手に5回無失点、都市対抗九州地区二次予選ではJR九州戦で5回1失点と好投。同秋の日本選手権九州地区予選でも3戦先発で防御率1.65と安定した投球を見せ、九州地区連盟の新人賞を受賞している。1年目はスタミナ不足を痛感したが解消へ取り組んでおり、指揮官も「不安要素はない」と信頼を寄せている。
好投手を打ち崩し投手陣を援護したい打線は、「いいバッターがそろっている」と糸数監督。マスクをかぶる佐久田、「チームが苦しいときに1本出せるのが強み」と語る福元の左打者2人がポイントゲッターの役割を担う。糸数監督が投手出身の目線から打者の弱点を見つけ出し、各選手は課題克服に着手。詳細こそ明かさなかったが、「弱点は明確です。(予選で)九州のピッチャーのレベルも見ることができましたし、改善できれば勝てるなというのはあります」と指揮官の言葉には自信がにじんでいる。
チームは2、3月にオープン戦を重ね、3月22日からは県内の大学、社会人、クラブチームの10チームで頂点を争う第43回石川逢篤杯(7イニング制)で今季初の公式戦を迎える。4月14日からは日本選手権の出場権もかかるJABA岡山大会に遠征。予選リーグではJR西日本、三菱自動車倉敷、JR北海道と戦い実力を試す。そして4月26日からは都市対抗沖縄一次予選を控えている。
これまでの九州地区での戦いを通し、都市対抗、日本選手権出場までの距離感は、ぼんやりしていたものから確かな道筋として見えてきた。初出場は目標の一つだが、チームはその先を見ている。福元主将は言う。
「都市対抗、日本選手権に行って2回勝ってベスト8のチームになろう、それぐらいの力を持とうという思いでやっています。(全国大会は)遠いという感じでもない。『行くぞ』というよりは『行って勝つぞ』と」
社会人野球の祭典とも呼ばれる、都市対抗野球大会。昨年で95回目を迎えたが、沖縄県勢は未だ勝利がない。県勢の出場は過去8回、2000年以降は沖縄電力が5度本大会に出場しているが、いずれも初戦で涙をのんでいる。都市対抗での勝利は、エナジックとしてはもちろん、県勢にとっての悲願でもある。
九州地区を突破し、全国大会でも勝ち抜くために、県全体で底上げを図っていく。昨年12月、糸数監督は監督就任後初めて沖縄地区の監督会や総会に参加。そこで、中部商高時代の2学年後輩にあたる沖縄電力の平田太陽監督ほか、ライバルチームと言葉を交わし、思いを一致させた。
「どのチームが(九州地区予選に)出ても県外のチームに勝てるように切磋琢磨して、沖縄のチームというつもりで戦おう、みんなで沖縄のレベルを上げていこうと言葉をもらいました。沖縄電力さん、シンバネットワークさん、ビッグ開発BCさんをはじめ、沖縄一丸となって県外のチームを倒すことを目標に、一緒に高め合っていきたいです」
25年のチームスローガンは「わったー負きらん!」。沖縄の方言で、「俺たちは負けない」を意味する。都市対抗の九州地区の代表枠は2つ。沖縄一次予選の代表枠は3つ。負けられない戦いは続く。エナジック創部初の全国舞台出場、そしてその先の舞台へ──。チームは新監督とともに前進していく。
【投打のキーマン】宮城凌我 投球術を磨く好左腕

宮城凌我[投手]
ドラフト解禁年を迎えた左腕はスライダーが勝負球。軸となるのは最速147キロの直球だが、チェンジアップで緩急をつけ、カットボールとツーシームでバットの芯を外してアウトを積み重ねていく。昨年は新人ながら主戦投手を務め、九州地区連盟の新人賞も受賞したが、社会人の打者のレベルの高さに苦しむ場面も。四球を出さずとも球数がかさんだ。進化を見せたい2年目は、「ここに投げればゴロを打たせられる、空振りが取れなくてもフェアゾーンにゴロを打たせよう、と発想の転換をしました」。投球術も磨き、勝てる投手を目指している。
PROFILE みやぎ・りょうが●2001年10月4日生まれ。沖縄県出身。178cm82kg。左投左打。宮古工高-ノースアジア大-エナジック(2年目)。
【投打のキーマン】佐久田英尚 攻守に頼れる司令塔

佐久田英尚[捕手]
1点をもぎ取るため、1点を守り抜くため全力を尽くす。「守備ではピッチャーを引き立てながら、野手ではチャンスメークと得点圏で1本打てれば」と攻守での貢献を誓う扇の要。仙台大時代は指名打者での出場が主だったが、BCL/茨城では主戦捕手として先発出場を重ね経験を積んだ。入社3年目の今季はバッテリーコーチを兼任。投手陣はもちろん、ポジションを争うライバル捕手にも助言を送り、チームの底上げに力を注いでいる。目標の全国大会ベスト8達成なら「野球人生がもっと変わるんじゃないかな」。その手で道を切り開いていく。
PROFILE さくだ・ひでたか●1997年5月15日生まれ。沖縄県出身。173cm85kg。右投左打。首里高-仙台大-てるクリニック-琉球ブルーオーシャンズ-BCL/茨城-エナジック(3年目)。