昨夏の都市対抗で21年ぶり2度目の頂点に立った王子は、若き戦力が躍動した。投打の柱は2年目の2026年シーズンもチームをけん引。そして秋のドラフト会議につなげていく。 取材・文=佐々木亨 
大卒入社1年目に社会人球界の頂点に立った。充実の表情は、2年目へのさらなる期待を抱かせる[写真=川口洋邦]
亡き監督に「恩返し」を
スーツに身を包んだ王子のルーキーたちが、グラウンドとは一味違った笑顔で晴れの舞台に立ったのは、『2025年度社会人野球表彰』が行われた昨年12月のことだ。外野手部門の社会人ベストナインに輝いた
柴崎聖人が、1年目をこう振り返る。
「走攻守すべてで高いレベルでプレーできるのが自分自身の魅力だと思っていますので、その姿を、年間を通して見せられたのは良かったです」
岐阜第一高を経て進学した大経大時代は、在学時の監督だった
高代延博氏に才能を見いだされ、関西六大学史上15人目となる100本のヒット(通算105安打)を積み上げた。
広島、
中日、
阪神、そして日本代表などでもコーチを歴任した高代氏が、食道胃接合部がんのために死去したのは社会人野球表彰の式典が行われた前日の12月9日のこと。ネットニュースで師の訃報を知った柴崎は言った。
「僕が大学時代に成長できたのは、高代監督のおかげです。悲しい気持ちはありますが、まずは社会人でベストナインを獲って恩返しができたかなあと思います」
すべてのプレーにおいて「大学時代から一番でありたい」と思い続けてきたという柴崎は、王子に入社してからも常に高みを目指してきた。社会人野球で確かなキャリアを積んできた同じ右投げ左打ちの
吉岡郁哉(法大)からは「打撃における左手の使い方やボールへのバットの入れ方を教わった」。10年以上も第一線で活躍する
神鳥猛流(中部大)からは「打席での待ち方」を教わった。先輩選手たちの技術も貪欲に吸収しながら、柴崎はレギュラーの座を不動のものにしていく。
都市対抗では、パナソニックとの1回戦から躍動した。一番打者として挑んだ第1打席ではストレートをたたいてセンター前ヒットを記録する。そして、二塁への盗塁を決めてチャンスメークだ。
「僕自身、全国大会が初めてだったので緊張する場面もありましたが、その中で結果を出せたというのは良かったと思います」
西部ガスとの2回戦から三番に座ると、7回表に大きな追加点となるソロ本塁打をマーク。JFE東日本との準々決勝では2試合連発となる2ラン。同地区対決となったヤマハとの準決勝でも2安打を放った柴崎は、決勝こそ無安打に終わったのだが、王子の21年ぶり2度目となる優勝に貢献し、新人賞にあたる若獅子賞を手にした。
昨シーズンの年間最多となる二塁打9本は、柴崎が持つ長打を秘めた打撃力と俊足と強い脚力を物語る。それでも、当の本人に満足する様子はない。
「守備や走塁もまだまだ。打率も、もっと上げていきたい。すべてにおいてレベルアップすることがこれからの目標です」
2年目も「チームの目標を第一にやっていきたい」と語る。
「その上で、自身の結果がついてくると思う」
大学4年時にプロ志望届を提出も、指名されなかった悔しさは、今でも持ち続けている。大卒入社2年目、ドラフト解禁年となる今シーズン、柴崎はさらに進化することを誓う。

バットコントロールに長けており、対応力が抜群だ[写真=宮原和也]
PROFILE しばさき・まさと●2002年4月4日生まれ。兵庫県出身。173cm83kg。右投左打。稲野小1年時から稲野エンジェルスで野球を始めて投手として活躍。伊丹西中では高槻中央ボーイズで投手兼遊撃手。岐阜第一高では2年春からベンチ入りし外野手。大経大では1年春からレギュラーで、外野手部門のベストナイン3回受賞。リーグ通算100安打を達成。25年に入社した王子では1年目からレギュラー。都市対抗では2試合連続本塁打を放って若獅子賞。25年の社会人ベストナイン(外野手)に輝いた。
2年目の目標は橋戸賞
25年度の最優秀防御率賞を手にした
樋口新にとっても、ルーキーイヤーの昨年は刺激的だった。
「自分の力以上の結果を出せたと思っています。想像以上でした」
表彰の対象となるJABA主要大会では12試合で50回1/3を投げて自責点7。防御率1.25でのタイトル奪取は投手としての自信を深めた。
「一番、うれしいですね。常に0点に抑えることを意識する中で、結果が出たことは素直にうれしいです」
千葉経大付高を経て進んだ愛知工大時代に、投球フォームを改善したのが飛躍のきっかけとなった。大学で、ともに左右の二枚看板を担った同学年の
中村優斗(
ヤクルト)を参考にしながら、「軸足(左足)にしっかりと力をためることを意識した」投球フォームにすると、ボールの質が変わっていくのを実感する。4年秋にはリーグトップの防御率0.52と41奪三振をマークして、確かな成長を感じた。
王子に入社してからも、左腕から繰り出される質の高い変化球と、自身が持ち味と語る「球の強さ」で、投手陣を支え続けた。25年度の社会人ベストナイン(捕手)でもある細川勝平(中部大)のリードの下、優勝した都市対抗では計4試合に登板。パナソニックとの1回戦では、9回表から登板してタイブレークの延長10回表に4連続四死球などで3点を奪われた。それでも、直後の10回裏に味方が4点を奪ってサヨナラ勝利を収める。樋口にとってはリベンジの一戦となった西部ガスとの2回戦では先発を務め、10奪三振の完封勝利。ヤマハとの準決勝、三菱自動車岡崎との決勝でも先発マウンドを担い、優勝の立役者となった樋口は、多くの財産を手にして夏の祭典を終えた。
「初戦の乱調から始まって、どちらかと言えば、都市対抗は悔しい思いのほうが強かったのですが、何とか粘り、そしてチームに助けられた大会でした」
昨年11月から12月にかけて行われたアジア・ウインター・ベースボール(AWB)では、社会人選抜チームの一員として4試合に登板。決勝で先発マウンドに立ち、優勝に大きく貢献した樋口は「スピードも出て、いいイメージで投げられた」と大会を振り返る。
要所では手応えを感じるルーキーイヤーだった。だが、高いレベルを目指す樋口は、シーズンを通せば「うまくいかなかったことが多かった」と言う。
「スピードでも、もっと上のレベルに行くために150キロは出したいと思っていましたが、結局は出なかった(大学時代の最速は151キロ)。そこはこれからもこだわり、向き合っていかなければいけないと思っています。いかに少ない力で大きな力を生み出せるか。そういう意識を持ちながら、投球フォームも見直していきたい」
そして、左腕は誓うのだ。
「都市対抗連覇を一番の目標にして、個人的には橋戸賞を狙うぐらいの気持ちで。その先にある上の世界に行けるように頑張りたい」
勝負の入社2年目のシーズンに向けて、その思いは強い。

マウンドさばきが秀逸であり、あらゆる場面でも、冷静に投げられる[写真=矢野寿明]
PROFILE ひぐち・しん●2002年6月28日生まれ。東京都出身。178cm84kg。左投左打。東久留米市立第十小1年冬から学校のクラブチームである東久留米ウエストキングでプレー。下里中では小平クラブに所属して投手。千葉経大付高では2年秋からエース。愛知工大では、4年秋にリーグトップの防御率0.52。25年に入社した王子では1年目から先発を担い、都市対抗では計4試合で好投。チームの黒獅子旗獲得に貢献。社会人年間表彰の最優秀防御率賞を獲得した。最速151キロ。変化球はカーブ、スライダー、スプリット。