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シーズン終盤、一軍再昇格するためにはファームで誰もが納得する数字を残すしかない
かつて構想に入るかも微妙だった窮地から、自力で居場所を確保した。「今のナンバーワンは幸輝。ここぞという場面では山下を使います」。代打起用について問われた8月下旬。
ラミレス監督は迷うことなく、
山下幸輝を切り札に指名した。イースタン・リーグで打率.375と猛アピールし、7月14日に一軍初昇格。19日の
巨人戦(横浜)で今季初安打を放つと、存在価値を高めていった。主に与えられるのは1打席。8月16日の
ヤクルト戦(横浜)で初先発を果たすまで、代打出場した13試合で打率.385のハイパフォーマンスを発揮した。
2015年にドラフト5位で入団。同期の
山崎康晃、
石田健大、
倉本寿彦らと並び「1日1日が勝負になる。その勝負に勝って、日本一に貢献したい。40歳、50歳まで現役を続けられるような選手になりたい」と力強く決意表明した。「三塁はいつでもできる。重要なのは二遊間」と本職からコンバートを指示し、高い期待を寄せたのが当時の
中畑清監督。プロ1年目から開幕一軍入りを果たし、23試合と経験を積んだ。ラミレス監督にバトンタッチした翌16年も、自己最多となる62試合に出場。順調なキャリアを形成するはずが、17、18年はともに21試合、昨年はついに一軍の舞台にすら立てなかった。
大卒で5年が経過。戦力外を覚悟した男は、再契約によって腹をくくった。悔いを残さない。野球を楽しむ。新型コロナウイルスによる自主練習期間ではハードな筋力強化にも取り組み、たくましい肉体を手に入れた。打席で見せる迫力満点の雄叫びは定番化。10月7日に出場選手登録を抹消されたが、確かな爪痕は残した。崖っぷちからはい上がった27歳。まだまだ、働き足りない。
写真=桜井ひとし