本塁打を打った選手は喜んだあまり、大きく飛び上がりました。そのとき、着地で足首を痛め、本塁と一塁の中間でうずくまったまま立ち上がれません。攻撃側の監督はさっそく代走の起用を申し立ててきましたが、このような場合に代走は起用できるのでしょうか 代走は起用できます。野球規則5.10(c)の[付記]には
「突発事故により、プレーヤーがプレイできなくなるか、あるいは審判員がその職務を果たせなくなった場合」の対処について記してあり、その[付記]に、
「プレイングフィールドの外への本塁打、または死球の場合のように、1個またはそれ以上の安全進塁権が認められた場合、走者が不慮の事故のために、その安全進塁権を行使することができなくなったときには、その場から控えのプレーヤーに代走させることができる」 とあります。
ただし、この規則ができたのは1955年(昭和30年)のことです。それまで、このような事態のときの代走は認められなかったので、どうしても得点が必要であれば、打者ははってでもベースを一周しなければなりませんでした。
日本のプロ野球で本塁打に代走を起用したのは2度あります。そのうち最初のケースは、69年5月18日の西宮球場で行われた阪急対近鉄戦でのことでした。
2回表に近鉄の
ジムタイルがホームランを打ったのですが、ベースを一周するとき、一塁ベースの手前で左足に肉離れを起こし、パタリと倒れて起き上がれなくなりました。そこで
伊勢孝夫が代走に起用され、照れくさそうにベースを一周しました。
ジムタイルはこの年限りで近鉄を退団し、アメリカへ帰国しました。このシーズン、本塁打以外で得点しておらず、本塁打8で得点7(前述の試合で、本塁打はジムタイルに、得点は代走の伊勢に記録されたため)と、少し変わった記録を残しています。