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惜別球人2024

安達了一(元オリックス) 引退惜別インタビュー にじむ職人のプライド「あの反復練習は、めちゃくちゃキツかった。でも、おかげで基礎を体で覚えられたんです」

 

華麗な守備に、巧みな右打ち──。“いぶし銀”の輝きは、生き残るために見つけた答え。現役引退を決意の理由も、プライドがにじむ。そんな職人の矜持が、チームの財産となっていくのは、コーチとしての思いからも分かること。来季からは内野守備・走塁コーチ専任で戦力となる。
取材・構成=鶴田成秀 写真=BBM


迷いなき決断は自分との約束


 守備で生きていく。そう決めた男は、幾度も堅守でチームの窮地を救ってきた。自信を持ってさばき続けてきた打球。だから、守れなくなったことが、何よりツラかったと言う。

──現役を引退して過ごす11月。引退を実感する瞬間もあるのでは。

安達 いや〜どうだろう、別に変わったことはないかな(笑)。今年から(内野守備・走塁)コーチ兼任でしたけど、秋のキャンプからコーチに専念して1日1日、疲れていますから(笑)。でも、バッティング練習はないので、『打たなくていいんや!』と思うと『あっ引退したんだな』って。まあ、逆に疲れるんですけどね(笑)。選手のときは自分のことだけを考えていればよかったけど、今は選手に加えて、チーム全体と『見ること』が基本なので。

──自分のことを考えなくていいことに対して寂しさを覚えませんか。

安達 う〜ん、寂しさか……。寂しさはありますけど。でも、自分で決めたことですから。

──現役への心残りも?

安達 未練とか後悔とかとは違うんですけど。なんて言うんだろ。全然、体は動くんですよ。でも、メンタルが付いていかなくてね。そもそも、決めていたんです。守れなくなったら、(現役を)辞めるって。やっぱり、あの試合(今年5月1日のロッテ戦=ほっと神戸)で、3つエラーをしてメンタルが……。それで守れなくなってきてしまったんですよね。

──長年、築き上げた自信を基に幾度も好守を披露されてきましたが、その自信さえも奪ったのでしょうか。

安達 自信は持っていましたけど、あの試合のあとから周りも気を使ってくれましたし。だから『もう1回』という気持ちもありました。でも、なかなか元に戻らなかったんです。怖さが出てしまって。エラーをしない選手なんていないんですけどね。

──これまでの失策とは、受け止め方が違ったのですね。

安達 あの試合は、リードした9回に守備固めで(二塁手として)出ていって、マウンドに平野(平野佳寿)さん。それも(NPB通算)250セーブが懸かっていて。そういうのが、より自分の中でダメージが大きかったんです。日本シリーズ(2023年の第5戦=甲子園、8回)のエラーも結構ダメージが大きかったんですけどね(記録は内野安打)。あのエラーから逆転されて、阪神に王手をかけられましたから。振り返ると、大事な場面でエラーすることが多かったなって思うんですよね。

──大事な場面での失策が“怖さ”につながっていった、と。

安達 でも、練習での感覚も良くはなかったんですよ。怖くて、足が止まってしまう。自分ではそんな感覚はないんですけど。自分の思っているところに、足が動かないというか。ケガはしていないし、体は元気。なのに、足が動かないのは、メンタル的な問題な気がするんですよ。う〜ん……でも、体のキレもなくなっていたのかな。視力もそうですし。そういう実感していない体の衰えが、メンタルの面から見えてきてしまったのかもしれませんよね。

──ただ、13年もの間、プロの世界で戦えたのは。

安達 もちろん守備があったから。本当にいろんな方に、ノックを打っていただきましたからね。数えたら何本になるんだろう。何千いや、何万、いやいや何十万とかになるんかな。ホント数え切れないほど、ノックを打ってもらいましたからね。

──入団時は守備で生きていく思いはなかったとも言っていましたよね。

安達 はい。バッティングでもアピールする気で入りましたから。でも、1年目から試合に出させていただいて、なかなか初ヒットを打てなかった(初安打は16打席目)。そのときに思ったんですよ。バッティングで生きていくのは無理だなって。だったら守備だって。守備がダメなら、俺は生き残れないって思ったんです。

──小学時代はソフトボールをプレーし、中学は外野手で、遊撃は高校2年から。「基礎はプロに入ってから」とも言っていましたね。

安達 はい。だから2年目(2013年)の春季キャンプが自分の基礎。(当時監督の)森脇(森脇浩司)さんが付きっきりで教えてくださいました。本当にひたすらノックを打ってくださって。基本的な守備練習の反復で、めちゃくちゃキツかったですよ。でも、おかげで基礎を体で覚えられました。捕って投げてアウトにするのが守備で、送球も大事なんですけど、捕らないと投げられない。送球以前の話になるじゃないですか。投げる動作に移行しやすい足の使い方とか、そういう面もありますけど、まずしっかり捕ることをたたき込んでくれたのが、あの2年目のキャンプ。キツかったですけど・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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