史上初の現役選手ドラフトから1年。「現役ドラフト1期生」の1人としてロッテに移籍した大下誠一郎にとって、激動の1年が終わろうとしている。と言っても、チームを移ろうが野球選手としてすることに変わりはない。きっとまた来季も、チームを鼓舞し続ける。 文=小田原実穂 写真=松村真行 
まだまだあどけなさも残るが、プロ8年目のシーズンを終え、確かな自信をのぞかせる
ロッテとの“因縁”
「バッターは、大下誠一郎〜〜〜」。名前が
コールされるとZOZOマリンのファンが一気に湧いた。登場曲『男の勲章』で貫禄たっぷりの男が登場すると、球場のボルテージは急上昇だ。
5月17日の
オリックス戦(ZOZOマリン)。両軍無得点で迎えた3回、この日、七番・DHで今季2度目のスタメン出場した大下が、3回に
田嶋大樹の149キロ直球を左翼前へと運ぶ移籍後初安打。一軍では2023年シーズン12打席目にして初の安打に「良かったのほうが大きいです。やっと1本が出たなと。なかなか1本出なかったので、ほっとしています」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化するため、日本野球機構(NPB)とプロ野球選手会の数年にわたる話し合いの末、昨オフからの導入が決まった「現役ドラフト」。各球団、必ず1選手を出し、1選手は獲る仕組みだ。その現役ドラフト1期生として、オリックスからロッテに移籍した大下。「やっとチャンスが来たのかなと。驚きはあったけど寂しい気持ちもあまりない。よし、やってやるぞとそういう気持ちです」。3年間在籍したオリックスに未練なく、感謝して前を向いた。
ロッテファンにとっては嫌な記憶にある人も多かっただろう。大下とロッテはある“因縁”があった。
21年9月7日に行われたオリックス対ロッテ(ほっと神戸)。ロッテが2点リードで迎えた8回、
頓宮裕真に代わって代打で登場した大下がカウント2-2から
佐々木千隼の129キロを左翼スタンドに運ぶ1号ソロ。劣勢ムードを一振りで変えた。その後には一死三塁から
福田周平の遊ゴロ失策でオリックスが同点に追いつくと、9回一死満塁。打席には再び大下。最後は
田中靖洋の直球をセンター前にはじき返し、劇的サヨナラ安打。首位攻防戦でオリックスが首位の座を奪い返した。
“兵庫の男”。プロ野球ファンは大下をこう呼ぶ。
20年9月15日のオリックス対
楽天(ほっと神戸)。オリックスが同点に追いついた直後の2回一死一、三塁。同月14日に支配下登録されたばかりの大下が、八番・三塁で即先発出場し、
辛島航の138キロをフルスイング。プロ初打席で左翼席に勝ち越し3ランをぶち込んだ。支配下登録されたがユニフォームは間に合わず、
山岡洋之打撃投手「102」のユニフォームを借りての出場。育成ドラフト6位の新人が放ったプロ初打席初本塁打は、05年に導入された育成ドラフト入団選手では史上初だった。
「打球が低過ぎて入ったっち思わんかったけど、一塁ベースを過ぎたくらいで声援が聞こえた」。二軍から見てきた当時の
中嶋聡監督代行(現監督)は、「大仕事をしてくれた」と連敗を3で止めた孝行息子とがっつり抱擁を交わした。
白鴎大3年時に父・一雅さんが脳内出血で倒れ、現在も車いす生活を送る。「毎日、病気で頑張っている。もっともっと、頑張らないけんなっちゅうふうに思いました」。北九州弁丸出しの“突っ張りキャラ”がファンの心をつかみ、新星誕生を強く印象づけた初打席だった。
さらにロッテに移籍後の6月3日の交流戦・
阪神戦(甲子園)では・・・
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