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野球浪漫2024

ヤクルト・中村悠平 前を向く理由「野球をやらせてもらうことに幸せを感じながら、やらなくちゃいけない」

 

日本一も世界一の味も知る、球界屈指の頭脳派捕手。だが一方では、その何倍もの悔しさを味わってきた。2024年、チームも個人としても続く苦しい日々。それでも、真っすぐに前を向く背番号27の姿がある。プロ16年目、変わらぬ思いでマスクをかぶっている。
文=菊田康彦(スポーツライター) 写真=桜井ひとし、BBM


礎となった高校3年間


「ホント苦しいですよ。こういうところをみんなで力を合わせて乗り越えて、自分自身もしっかりとやらなくちゃいけないんですけど……苦しいですね、今は」

 ヤクルトの正捕手、中村悠平が胸の内を明かしたのは、今シーズンが開幕して間もないころのことだった。

 本拠地の神宮球場で行われた中日との開幕3連戦で2勝1分けという好スタートを切りながら、そこから4連敗で借金生活に突入。中村の言葉からは「このままではいけない」という強い危機感がうかがえた。

 それから3カ月。チームの状態は決して上向いてはいない。長い間ケガに苦しんできた奥川恭伸が980日ぶりの勝利投手になるなど、2年ぶりに交流戦で勝ち越して上昇気流に乗るかに見えたのもつかの間、リーグ戦が再開すると再び負けが込み、借金は2ケタに逆戻りとなった。

 中村自身、交流戦の途中で上半身のコンディション不良のために一時、チームを離脱。復帰後は3歳下の捕手、松本直樹にスタメンを譲ることも多くなり、「もどかしいという気持ちが一番ですね」と心境を吐露する。

 戦列復帰後、初めて2試合続けて先発マスクをかぶった7月5、6日の巨人戦(神宮)でも、ともに初回から相手に先制を許すなど、チームに勝利をもたらすことはできなかった。

「守備からリズムをつくるっていうのがキャッチャーとして大事なんですけど、(5日の試合のように)初回からいきなり4失点だとチームの士気は一気に下がる。たとえピッチャーの調子が良くなかったとしても、その中で(バッテリーとして)粘らなくちゃいけないんですよね」

 ヤクルトに入団して今年で16年目。これまでの中村のプロ野球人生は数々の栄光に彩られてきた。ベストナイン、ゴールデン・グラブ賞各3回、オールスター出場7回。3度のセ・リーグ優勝を経験し、チームが日本一に上り詰めた2021年の日本シリーズではMVPに輝いた。

 昨春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝ではウイニングボールをそのミットに収め、マウンド上の大谷翔平(現ドジャース)と抱き合って世界の頂点に立った喜びを分かち合った。一方で挫折を味わったことも数限りない。

「自分が正捕手になってなかなか(チームが)勝てないとかね。『お前(がキャッチャー)じゃ勝てない』って言われたこともありますし、そこはやっぱり勝たないと評価されないポジションですから」

 福井県大野市で生まれ、小学5年生のときに地元の少年野球チーム「下庄ファイターズ」で野球を始めてからほぼキャッチャー一筋の野球人生。その礎が築かれたのは、福井商高で過ごした3年間でのことだ。

 福井商高は当時・・・

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