身も心もボロボロになった壮絶な現役晩年

病気が原因で引退しても前向きな今浪
昨季限りで現役引退して4カ月。元
ヤクルト・
今浪隆博はすっきりした表情だった。
「小学1年以来ずっと野球をやってきたので……。不思議な感じですね。技術的にはまだまだやれるし、試したいこともあった。でも正直ホッとしているんです。(引退を決断した)一番の理由は故障もありますが病気なので、解放された思いはあります」
内野ならどこでも守れる守備力に加え、卓越した打撃技術。2016年は代打で打率.382を残した。もっと長く現役でプレーしても不思議でない選手だった。だが、同年8月に発症した「甲状腺機能低下症」で運命が大きく変わった。昨季は病気に加えて椎間板ヘルニアも発症。7試合出場のみで10月3日に球団から戦力外通告を受けると、引退の意思を伝えた。
現役晩年は身も心もボロボロになりながら最後まで闘い続けた。「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンの分泌が低下して眠気、無気力、抑うつ、記憶障害などの症状が出る。今浪も苦しんだ。昨年2月にぎっくり腰を発症して、4月下旬に実戦復帰したが体調が悪化した。5月10日の
西武戦(西武第二)。
「それまで全然大丈夫だったのに急にきました。何もしたくなくて気力がわかない。うまくしゃべれないし声が出なくなりました」
首脳陣は今浪の異変に気付いたが、スタメンで出ることを直訴した。
「この病気は一生付き合わないといけない。症状が出るたびに出場できなかったらチームに迷惑が掛かる」
だるさ、眠さに襲われて目の焦点が合わない。2安打打ったが5回で途中交代。試合中に帰宅した。
「すべてが最終打席のつもりだった」
苦しく、つらい日々が続いた。もう野球ができないと不安に襲われたが、腰痛が再発してリハビリ生活になると体調が徐々に良くなった。ともにリハビリ組だった
川端慎吾には「ナミさん、笑顔が増えましたね」と声を掛けられた。だが、今浪の野球人生は終わりが近づいていた。7月下旬に戦列復帰も代打出場がほとんどだった。
「周りに体調を気遣われている時点でプロとしてアウトです。もう、このときは戦力外を覚悟していた。すべてが最終打席のつもりだった」
現役最後の打席は8月23日のイースタン・
巨人戦(東京ドーム)。代打で出場した7回に
澤村拓一の直球をはじき返す右前打を放つと、腰に激痛が走りその場に崩れ落ちた。
「痛み止めの注射を打ち続けてきたけど、腰が限界を超えた。終わったなと思いました」
再び立ち上がって一塁にたどりつくので精いっぱいだった。
昨季イースタンで打率.375。力が落ちて引退したわけではない。まだ働き盛りの33歳だ。投薬治療は一生続く。予期せぬ病魔に襲われた運命を恨むことはなかったのか。今浪は即座に否定した。
「病気がなかったらとは考えない。これも運命なんです。むしろ病気になった自分だからやれることがあるんじゃないかと思います」
ファンから激励の言葉、手紙をたくさんもらった。「同じ症状の方からも『このうがい薬がお勧めです』ってプレゼントをもらったり。『勇気をもらっています』と言われたけど、こちらが勇気づけられました」と感謝を口にした。
引退後、JFAこころのプロジェクト「夢の教室」で小・中学生の講師役を務めるなど新たなフィールドで走り続けている。
「元気にやっていますよ。どういう形であれ、野球界に恩返ししたい気持ちは当然あります」
運命を受け入れられる人間は強い。今浪にしかできない役割が、きっとあるはずだ。
記事・写真提供=ココカラネクスト編集部 平尾類