日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。 一打勝ち越しの場面では三ゴロ

山梨学院・野村健太はパワーあふれる打撃スタイルから「山梨のデスパイネ」の異名を持つ。熊本工との1回戦では3安打を放ったが初戦敗退を喫している(写真=高原由佳)
甲子園で実績あるスラッガーは、発言も風格十分。さすが「山梨のデスパイネ」と呼ばれるのも理解できるスケール感が漂っていた。
「甲子園では打てる気がする。調子が良くなくても、打てそうなので不思議なんです」
高校通算53本塁打を誇る山梨学院・野村健太(3年)は、2年夏から3季連続甲子園出場。昨夏は高知商との1回戦で左越えアーチ。今春のセンバツ1回戦(対札幌第一)では、大会史上23人目となる1試合2本塁打を放っている。ボールを破壊しそうなほど、パワフルなフルスイング。全国舞台で右の大砲は、強烈なインパクトを残してきた。
しかし、最後の夏。チームは4年連続での夏の甲子園出場を決めたものの、野村は山梨大会5試合でノーアーチに終わっている。
「ミスショットが多くて、チャンスでも凡退。『打たないといけない』という気負いがあったのかもしれません」。常に堂々としている180センチ88キロの巨漢も、負ければ終わりという重圧と闘っていたのだ。
山梨大会後から甲子園までの間で打撃を修正した。ポイントは3つ。タイミングの取り方と、始動を早めにして、体の重心が前に行かないように腰の回転で振ることを体に染み込ませた。
また、かねてから取り組んできた、追い込まれてから振らされるという、低めの変化球の対応に手応えを得ていた。「左ヒジを伸ばしてボールを拾う練習を積んできました。夏の大会でも2本のヒットが出ました」。
今大会は2本塁打を目標とし、手応えをつかんで臨んだ熊本工との1回戦だったが、持ち味を発揮できなかった。3安打こそ放ったものの、やや差し込まれる場面が多く、後方に下がる外野の前へポトリと落ちる右前打と、詰まりながらも力で運んだ左前打が2本。やや振り遅れる形で、夏の県大会からの課題を克服することができなった。
最大の見せ場は延長12回二死二塁。一打勝ち越しの場面であったが、変化球をひっかけて三ゴロ。タイブレーク突入直前のその裏、山梨学院はサヨナラ本塁打を浴び惜敗している(2対3)。
言い訳せずに現実を向き合う
野村は好機で凡退した12回の打席を「インコースの甘いボールを仕留めることができませんでした」と悔やんだ。そして、続けた。
「何か思うように体が動かなくて……。それが自分の力かな、と」
報道陣からの「調子が戻らなかった?」という質問に対しては「戻るとかではなく、普通に打てなかっただけです。その理由? 分かりません」と声を振り絞った。言い訳をしない。「力不足」という現実と向き合った。
卒業後の進路については「プロか大学で迷っている」と語った。3季連続での甲子園本塁打はならなかったが、打席での雰囲気は「山梨のデスパイネ」と言われるだけのオーラがあった。バッティングに対して研究熱心であり、次のステージでも周囲に期待を持たせる豪快な長打力を貫いてほしいものである。
文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)