4月20日からの対ドラゴンズ3連戦を、1分2敗で終えた。打撃陣が揃って不振の時期にあり、計27イニング攻めて本塁打による1点しか取ることができなかった。
8日に挙げた勝利を最後に、10連敗。長くて暗いトンネルの中を通って、チームは甲子園へと移動した。
誰しもが、一筋の光を求めていた。
仲間たちの弾ける笑顔が、指揮官の目尻のしわに表れる笑みが、見たかった。
ノーアウト満塁。神里が打席に向かう。
23日の首位タイガースとのカード初戦、相手先発は
藤浪晋太郎だ。過去、ベイスターズを苦しめてきた右腕は今年、9年目にして初の開幕投手を託された。より手ごわい敵になると見られていた。
初回、今シーズン初めて1番打者としてスタメン入りした
田中俊太がいきなり仕掛ける。初球から3球連続でバントの構え。続く
柴田竜拓も初球にバントのそぶりを見せ、長身投手に揺さぶりをかけた。
藤浪との対戦にあたって、チームは方針を立てていた。
工夫なく立ち向かっても、そう簡単には打ち崩せない。とにかく相手が嫌がることをして、気持ちよく投げさせないようにしよう――。
田中俊、柴田いずれも結果的には凡退となったが、意図が見える打席だった。
2回に入ると、藤浪の制球が乱れ始める。3者連続の四球で、ベイスターズに大きなチャンスが転がり込んだ。
ノーアウト満塁。7番に入っていた
神里和毅が打席に向かう。過大な欲は抱かなかった。
「先に点が取れれば、あとは勢いづくかなと。だから、まずはどんな形であれ、1点を取りたかった。強引に行って(相手投手を)助けるのは嫌だったので、ストライクだけを打とう、ピッチャーゴロと三振だけはしないように。そう思って打席に入りました」 果敢に打ちにいって併殺になれば、制球難の投手を助けるだけでなく、次打者の肩に大きな重圧をかける。かといって、球の見極めに重きを置き過ぎれば、不利なカウントを招きかねない。また、無得点で押せ押せのムードが消え去ることは何より避けたかった。
打ち気と慎重さの塩梅が難しい局面、「1点」にフォーカスしたアプローチはおそらく適切だった。
神里は1ストライク後の2球目にバットを出す。外角のスプリットに面を合わせ、投手の脇を抜いてセカンドゴロとした。送球は二塁へ。その間に三塁走者の
佐野恵太がホームを踏んで、久々の先制点を手に入れた。
スタメンと途中出場の違い。
昨シーズンの開幕前、神里は「1番・センター」のレギュラー候補筆頭だった。そして昨オフ、
梶谷隆幸の移籍が決まったときも、次期リードオフマンとして真っ先に名前が挙がる一人だった。
しかし、その座は近いようで遠い。2020年は技術を高めた梶谷がポジションをつかんで離さなかった。2021年、その梶谷がいなくなり群雄割拠の外野陣の中にあって、神里は、明確に頭ひとつ抜け出すことができずにいる。
結果を示したかったオープン戦は、15打数3安打の打率.200。盗塁は2度試みたが、ともに失敗に終わった。開幕スタメン入りにつなげられなかった。
春先になかなか調子を上げられない。「毎年そうなので。またか、と」。自分が歯がゆかった。
しばらく途中出場が続いたが、前向きな気持ちを保った。
「いつかチャンスは来るだろう。そのためにしっかり準備はしておこう」
9試合目のカープ戦で今シーズン初スタメン。引き分けを挟んで6連敗中だったチームは、神里を斬り込み役の1番に据えた。
3回の第2打席、
野村祐輔の初球を捉えて右中間に先制のソロを放つ。さらに直後の守備では、左中間の大飛球を「野球を始めて初めて」のダイビングで好捕。チームの初勝利に攻守で貢献した。
それまで途中出場では6打数1安打だったが、4日のカープ戦を皮切りにスタメン入りした3試合で12打数6安打。神里は言う。
「(スタメンのほうが)やりやすさはあります。1打席ダメでも、次の打席ではどうしようということを考えられるので、気持ちの面で少しは楽に試合に入れる。(結果の違いは)そこなのかなと思います」
6日のドラゴンズ戦では、ほとんど経験のない6番打者として起用されたが、「戸惑いはまったくなかった」と話す。
「打順は何番でもいい。(6番の場合)チャンスで回ってくることが多いだろうし、宮崎(敏郎)さんの後であれば勝負されることも多いだろうなと思ったので、そこはしっかり自分がなんとかしたいなという思いでした」 6回がそのとおりのイニングになった。
桑原将志、
牧秀悟、宮崎の3安打で満塁となったところで神里に打席が巡ってきたのだ。
難敵の左腕、
大野雄大が投じた2球目を完璧に捉えると、打球は広いバンテリンドームの右翼席に届いた。
よかったときの感覚を、もう一度。
だが、好調の時期は短かった。
8~10日の3試合を11打数無安打で終えると、11日の試合でスタメンを外れた。以降は、ベンチスタートとスタメンを行ったり来たり。三振する姿も目立った。
「フォームをいろいろ考え過ぎてしまっていたのかなと思います。その前までは、1つか2つくらいしか考えるポイントがなかったけど、あのあたりから『もっと強く打ちたい』『こうしたらもっと強く打てるんじゃないか』と考えて、いろいろとやってみたので。そのせいもあったかもしれません」
スタメンでの出場機会の獲得と、そこで結果を残せたことを、自らを勢いづけるきっかけにしたかった。しかし、その意欲は裏目に出たのかもしれなかった。
神里は復調を期して、あらためて好調時の感覚に思いを馳せた。
「いままでやってきたこと、去年あたりにやっていたことを振り返って、そのときの感覚を思い出すように、いろいろ試しました。(状態がよかったころは)考え方がシンプルだった。しっかりボールを上から見て、タイミングを早く取って、前で打つ。そこに、いまやっていることを合わせてみたり」
過去にヒントを探りつつ、進化のための挑戦にも取り組む。ホーム、ビジターを問わず毎日のように早出練習を繰り返した。
チームは再び連敗に突入していた。「試合に出て勢いづけたい」と願いながらの調整の日々。なかなか思いどおりにはいかず、「ただ悔しかった」。
キャプテンの佐野も、状況をなんとか好転させたいと考えていた。あるとき神里は、佐野からこんな話をされたという。
「去年だとかは、チーム状況が悪いとき、田代(富雄)コーチが『27球でアウトになってもいいから、どんどん初球から行け』と言ってくれて、気持ちが楽になった部分があった。今年も、そろそろそういうものがほしくないですか」
佐野は、17日のジャイアンツ戦が終わった後にミーティングを開いた。全員が同じ方向を向いて戦えるように、それぞれの思いを目に見える形にしていくことを提案した。
以後、選手たちは3~4人のグループに分かれ、グループごとに頻繁にミーティングを行うようになった。メンバーの前で、一人ずつ、チームの勝利のために自分がやりたいと考えていることを話すようになった。
「フォームに迷いがあった。しっかりと自分の形で打ちたい」
仲間の前でそう誓って、神里は甲子園に乗り込んだ。
「ベンチを飛び出して迎えてくれた」
ボールを上から見て、タイミングを早く取って、前で打つ――。求めていた好調時の感覚を取り戻しつつあった。
「(23日タイガース戦の)前日、試合が終わってからバッティング練習をしているとき、『これかな』というのはありました。ここを意識してやれば大丈夫かなって」
甲子園では、持ち込んだ好感触を発揮する機会に恵まれた。
第1打席に続いて、第2打席も満塁の場面。「的を絞って、自分が狙ったところだけを振る。ヒットにできそうな球を打ちにいこう」。その姿勢が功を奏し、冷静にボール球を見極めて、打点つきの四球をもぎ取った。
第3打席はまたしても満塁で回ってきた。投手は
馬場皐輔に交代していた。3球目、膝元へのカットボールは不調時なら空振りする可能性が高い球だった。バットが止まったことが、いい兆しだった。
5球目、インローの直球に対しバットを鋭く振り抜く。「そういうふうに打ちたいと思ってやってきたので、それがうまくできてよかった」。開かず、前で捉えた打球の球足は速く、瞬く間に一二塁間を抜けた。
右翼手の後逸は走りながら見ていた。ベースを蹴るたび加速していく。腕をぐるぐる回す三塁コーチを視界に捉えると、速度を緩めることなくいっきに本塁まで帰ってきた。
相手のミスも絡み、一挙4点を追加。試合を決定づけた。
神里が思い返す。
「結果的にホームまで帰ってこられましたし、そのあともメンバーがベンチを飛び出して迎えてくれたので、うれしかったです」 あのとき全員が笑顔だった。チームも、ファンも、ずっとずっと待ち望んでいた光景だった。
守備でも、右中間へのヒット性の当たりに快足を飛ばして追いつき、飛び出していた一塁走者を刺す好プレーがあった。先発した
坂本裕哉をはじめ投手陣も粘り切った。
長く続いた連敗は、ようやく止まった。
「結果がついてくれば、また乗ってくる」
ただ、神里の表情は決して明るくはない。
今シーズンのベストの打席はどれかと問われると「そんなの、ないです」。大野雄大から打った満塁ホームランも、満足感とはほど遠い。
「単発で終わってるので。それがきっかけになっていればいいけど、そういうのがないので、あんまりよくはない。逆に、ダメだったのかな、と思ったりもします」
現在の打率は.176に留まる。「全然ダメだなと思います」と短く語った言葉がすべてだろう。
ポジションをつかみ取るためには何が重要か。神里は答える。
「やっぱり出塁すること。今年はフォアボールが少ないですし、三振も多いので。この数試合はちょっとずついい感じが出てきている。それを続けていけば、またフォアボールも増えてくると思います。状態自体は悪くない。結果がついてくれば、また乗ってくると思う」 チームの状況も似通っている。長い連敗は止まりはしたが、流れを覆すにはいたらず、タイガースとのカードの残り2戦に敗れた。
27試合を戦って、4勝19敗4分。端的に言って、現実は厳しい。
流れが変わるプレー、必死につかんだ1勝。そうしたきっかけをきちんと次につなげていくことが、浮上のために欠かせない。
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