史上初の「年間タイトル4冠」

慶大の主将・福井章吾は東農大北海道との初戦[2回戦、11月21日]を前に、大阪桐蔭高・西谷浩一監督に頭を下げた
明治神宮大会2日目(11月21日)。第2試合で近畿地区代表の大阪桐蔭高が、敦賀気比高(福井)に逆転勝ち(8対4)した。
ゲームセット後の入れ替え時間。第3試合に控えていた慶大の主将・福井章吾(4年・大阪桐蔭高)はグラウンドインすると、すぐさま三塁ベンチから一塁ベンチへ駆け寄った。
高校3年間、指導を受けた大阪桐蔭・西谷浩一監督に頭を下げるためだった。今大会は新型コロナ禍の感染予防対策を講じた運営により例年、開幕前日に行われていた開会式が実施されなかった(開幕試合に組まれた高校の部の2校のみが参加)。つまり、大会期間中に接触するのは、この機会に限られていたのだ。
組み合わせを確認した際、福井は特別な「縁」を感じたという。すぐに、西谷監督へ電話した。「お互いが勝ち上がらなければ、この状況にはならなかった。これ以上ない、恩返しの場になる」と、ほんのわずかな時間ではあったが、恩師に挨拶することができた。
慶大は東農大北海道との初戦(2回戦)を、7回
コールド勝利(7対0)で飾った。春秋連続日本一まで、あと2勝。慶大は6月の全日本大学選手権を34年ぶりに制している。春、秋のリーグ戦に加えて、今大会で頂点に立てば、東京六大学野球連盟の加盟校としては、史上初の「年間タイトル4冠」となる。福井は大会前にこう語っていた。
「嫌でも4冠のことはちらついてくる。この1年間、リーグ戦を通じて『一戦必勝』と言い続けてきました。1球1球を大事に、一つひとつのプレーを完結させる。目の前の1つのアウトを大切に取る苦しさ、難しさを理解したチーム。歴史に名を残せるように、結果として、4冠が達成できればいいです」
もちろん、理想は「アベックV」である。
「大阪桐蔭は明治神宮大会を制したことがありませんので、お互いが、新しいことに挑戦して、両方とも優勝で終われればいいです」
変わらないチーム最優先の姿勢
福井は大会前のオープン戦で、足の甲に自打球を当て、3日ほど本隊から離脱した。「疲労がありましたので、良い意味で休養になりました。完治しています。痛みはありません」と、一切、弱みを見せない。この日の初戦は慶大・堀井哲也監督の配慮により、先発は2年生・善波力(慶應義塾高)だった。福井は7回表の守りから出場し、7回裏にはコールド勝利を決める内野安打を放っている。
慶大のユニフォームを着る最後の大会。自身のことよりチーム最優先の姿勢は変わらない。
「自分は技術で引っ張るよりも、精神的な部分のウエートが大きくなる。勝つことが僕の評価になる。どん欲にいきたいです」
福井は捕手の役割を「監督の分身」と語る。今秋のリーグ戦は4勝1敗5分で30年ぶりの春秋連覇。トーナメントの明治神宮大会も「負けない野球」を実践する。絶対的リーダーがけん引する慶大に、死角は見当たらない。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明