ピッチングのコツを習得する3試合

大師高の147キロ右腕・澤田は高校卒業後の「プロ志望」を表明している
好きな投手は
ソフトバンク・
千賀滉大である。
「努力すれば、プロの舞台に立てるということを証明してくれました。投球スタイルも似ている、とよく言われるんです」
大師高の186センチ右腕・
澤田寛太(3年)は昨年、急成長を遂げた。鶴見中時代は「一番・捕手」で県大会3回戦進出と、目立った存在ではなかった。「きょうだいも多いので、親には負担をかけられない。強い公立高校でプレーしたい」と、大師高に進学した。
同校は2015年夏に16強、16年春に16強、17年夏に16強、19年夏に32強。澤田は私学優勢の神奈川県で昨今、勢いのある県立校で勝負しようと同校の門をたたいたのである。
アメリカ独立リーグでのプレー経験がある小山内一平監督は、澤田のポテンシャルを最大限に生かすため、1年秋に投手に転向させた。背番号1を着けた2年夏に142キロを計測。同秋は地区予選初戦で右ワキ腹を痛めた。エース・澤田が離脱すると、チームは同予選3連敗で県大会に進出することができなかった。
復帰後の11月、横浜清陵高との練習試合で自己最速を5キロ更新する147キロを計測し、NPBスカウト注目の存在となった。一冬を越え、今春の飛躍を期していた矢先、体調不良により長期離脱。3月末の地区予選は澤田が投げない中でも、チーム力で県大会進出を決めた。
大師高は2試合を勝ち上がり、夏のシード権をかけた横浜商高との3回戦(4月16日)で敗退(2対5)。澤田は9回完投したものの、万全のコンディションとは程遠い状況だった。何とか今大会に照準を合わせるも、明らかな調整不足。また、冬場に肩に違和感を覚えていたことから「力加減? 5割程度で、たまに6割。夏もあるので、無理はしませんでした」と、コントロール重視の投球に徹した。チームを勝利に導くことはできなかったが、力投派の澤田にとっては、ピッチングのコツを習得する3試合だったという。
精度が高いフォーク
変化球はカットボール、カーブ、チェンジアップ、スライダー、フォーク、シュート、シンカーと多彩で、小山内監督が「手先が器用なんです」と、どの球種でもストライクを取れる強みがある。
「昨秋も故障明けから、一気に上がってきました。今回も5月末から6月くらいに、グーッとくるのではないかと期待しているところです」(小山内監督)
澤田はソフトバンク・千賀の武器でもあるフォークの精度が高い。夏に向けて球威が戻れば、打者を圧倒するイメージもわいてくる。千賀は愛知の県立校である蒲郡高から育成ドラフト4位指名から支配下登録を勝ち取り、日本球界のエースへと上り詰めた。澤田は「プロを考えています。指名されなければ、それから次の道を考えたい」と、将来像を描く。
「この春は力不足を痛感しました。目的意識を持ち、内容の濃い練習をして、夏は一戦一戦、勝ち上がりたいと思います。この春は3回戦敗退。夏はベスト8を目指していきたい」
夏本番まで約3カ月。ノーシード校・大師高のエースが、強豪校を相手にどのような投球を見せるのか。澤田の投球から目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=松田杏子