厳しかった現実

東大の主将・松岡泰は今季最終戦となった法大2回戦[10月23日]後、チームを代表してスタンドに一礼した
東京六大学リーグ戦の試合後取材は、神宮記者席裏のプレスルームで三塁側チームから行われる。一塁側チームは記者席横に控える。東大の主将・
松岡泰希(4年・東京都市大付高)は法大の取材が終わるのを待っていた。
取材前に顔を合わせると、こうつぶやいた。
「申し訳ないです……」
取材時間は10分。東大・
井手峻監督を中央に、左にエース右腕・
井澤駿介(4年・札幌高)、右に松岡泰が着席した。
松岡泰は報道陣からの質問に答える以外、両ヒザに手を突き、うつむき加減で、視線を上げることはかった。相当な落胆ぶりである。
チームの目標は「最下位脱出」だった。今秋の最終カードは勝ち点0同士の法大戦で、1997年秋以来となる単独5位の可能性を残していた。しかし、現実は厳しかった。1回戦(10月22日)は1対2、2回戦を0対5で落とした。1勝10敗1分、勝ち点0。50季連続での最下位が決まった。
今秋は終盤まで接戦の展開は多かったが、1試合を勝ち切るのは難しい。井手監督(元
中日)は「もう一つ、攻撃力が必要。運も必要。勝ち点(2勝先勝)を取るのは大変ですね」と振り返った。シーズン序盤は好調だった打線も「バットは振ったんですけど、形が乱れてきた。要因? 分からないですね……。エキスパートでもないので」と、力なく話した。また、東大の武器である盗塁も、シーズン終盤は封じられる場面も増えた。井手監督は「敵も素晴らしい集団だから」と、対策を重ねる対戦校に脱帽するしかなかった。
主将・松岡泰は敗戦の責任を一身に背負った。消え入るような声で、シーズンを回顧した。
「皆、よく頑張ってくれたので、自分がちゃんとしていれば……。勝ち切れない。申し訳なさしかないです」
卒業後は社会人チームで現役続行
松岡泰は3年春から正捕手としてけん引。東京六大学で対戦する5校は、実力校ばかり。この4年間、勝負の厳しさを味わってきた。
「強い相手に対して、どう戦うのか。勝負どころで、力を出さないといけない。そういう人間になるのが難しい。技術がない中で勝たないといけない。跳ね返すためには、見えないものがあると信じている。そこをどう作るかが、課題。今後も考えていかないといけないと思いました」
後輩へメッセージを残し、神宮をあとにした。
「最下位を脱出する――。並大抵のことではない。もっと本気で、もっと目の色を変えて頑張ってほしいと思います」
松岡泰は誰よりもどん欲に、勝利を突き詰めてきたチームリーダーだった。勝ち点奪取、最下位脱出という成果を残すことはできなかったが、背番号10が示し続けたファイティングポーズは、後輩たちの脳裏に残った。
松岡泰は東大卒業後、社会人企業チームで野球を続ける。最高峰である都市対抗優勝を目指し、より高いレベルで切磋琢磨するステージを、心待ちにしている。赤門軍団をけん引した、不動の司令塔の今後から目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=井田新輔