貢献度を超える衝撃度?
1981年、20勝を挙げて最多勝に輝き最優秀防御率、最多奪三振、そしてMVPも獲得した江川
選手のトレードだけでなく、FA選手の去就も注目される昨今のストーブリーグ。以前ほどではないにせよ、オフの王者といえば
巨人だろう。FA制度が導入されたのは1993年のオフだが、以来、
落合博満、
広沢克己、
清原和博、
江藤智、
村田修一ら長距離砲を中心に、次々に名選手を獲得してきた。各チームの主力がFA宣言、移籍することは話題にはなるが、その行き先が巨人であることに、あらためて驚くファンは少ない気がする。
そんな巨人にあって、歴代で最も衝撃的かつ強力な補強となったトレードは、
江川卓の“獲得”ではないだろうか。21世紀に入ってダイエーから
小久保裕紀を無償トレードで獲得したのも衝撃的であり、大いに憶測を呼んだが、小久保は3年の在籍でFAによって
ソフトバンクとなった古巣へ復帰しており、80年代のエースとして活躍した江川の貢献度には届かない。それ以上に、江川の“獲得”における騒動の大きさは他と比べるべくもない。
巨人ひと筋と言ってもいい江川だが、厳密には2チームに在籍している。巨人はドラフトで2度、入団を拒否していた江川と78年オフ、ドラフト制度のスキを突く形で強引に契約。これが政財界をも巻き込む大騒動となる。ドラフト1位で
阪神に指名された江川の巨人への入団は認められなかったが、その裁定が年末になって一転、「巨人は江川を解き放し、江川は速やかに阪神の交渉を受くべし。阪神は江川を入団させた後、キャンプまでに江川を巨人とのトレードで解決したい」という、コミッショナーの「強い要望」によって、巨人への入団が事実上、決まった。江川は阪神との交渉を経て、キャンプインの前日に交換トレードで巨人へ“移籍”。これで阪神へ移籍することになったのはエース格の
小林繁だった。
迎えた79年、小林は巨人戦での無傷の8勝を含む22勝で最多勝。一方、処分による出遅れもあって9勝に終わった江川だったが、翌80年から2年連続で最多勝に輝くなど、押しも押されもせぬエースに。自己最多の20勝を挙げた81年には最優秀防御率のタイトルも獲得、日本一に貢献して、MVPに選ばれている。
文=犬企画マンホール 写真=BBM