魂を揺さぶるようなプレー

4月2日のオリックス戦で8回に勝ち越し三塁打を放った鈴木[写真=BBM]
開幕連敗スタートの
西武ナインをベルーナドームに集まった2万7491人の大歓声が後押しする。4月2日のオリックス戦。1対1の同点で迎えた8回、二死一、三塁で
鈴木将平がフルカウントから
ワゲスパックのストレートをとらえた打球は一塁線を襲う。三走・
平沼翔太がホームを踏んで勝ち越すと、一走・
山川穂高も巨体を揺らして激走。ホームに生還すると、鈴木も一気に三塁まで進んだ。暴投で鈴木も生還し、この回3得点。最終回は開幕戦で同点弾を浴びた新守護神の新人・
青山美夏人がゼロで締めて、チームは今季初勝利を手に入れた。
先の塁を狙う姿勢で勝ち越し点を挙げた8回の攻撃、9回の青山のリベンジ投球は、まさに
松井稼頭央新監督が掲げたチームスローガン、「走魂」そのものだった。“走”と、勝負の世界で相手に向かっていく“魂”を組み合わせた造語。1月下旬にチームスローガンが発表された際、松井稼頭央監督は次のようなコメントを残している。
「私は“走る”ことが野球の原点だと考えており、積極的に次の塁を狙う姿勢や、必死にボールを追い続ける意識をチーム内に浸透させたい思いもあって、このスローガンに決めました。選手たちがグラウンドで躍動し、ファンの皆さまの魂を揺さぶるようなプレーをお見せできるように、『走る』ことにこだわりを持って春季キャンプから取り組んでいきたいと思います」
まさに、今季の西武は「走魂」がキーワードになりそうだが、球団内にはこのスローガンをさらにナインに浸透させたい思いが強い。これまでも毎年、スローガンをつくってきたが、ファンへのPR要素にとどまっているように感じられたからだ。

スローガンの「走魂」を発表する松井監督[写真=球団提供]
チームの戦いを表すスローガンをシーズン通して選手に意識してもらいたい――。そのための取り組みの一つが「走魂賞」の制定だ。チーム全体に意識付けるため、スローガンに見合うプレーや言動でチームに最も貢献した選手を複数、監督やコーチが月の上旬に選出し、そのなかからファンクラブ会員専用マイページのアンケート機能からファンに投票してもらい、月間賞と年間賞を決定するものだ。受賞した選手には同賞のスポンサー契約を締結した株式会社ヨコオデイリーフーズから賞金と副賞が贈呈される。
同賞はチーム統括部が企画し、その他球団内部の関係部署でも議論を重ね、内容を練り上げていった。
「一番はスローガンを体現しながら勝つことが目的です。スローガンを浸透させるために、キャンプ地やベルーナドームでは、ベンチ内やバックヤードなど選手の目に入りやすいところに『走魂』と書かれた掲示物を複数掲出しました。もう、しつこいくらい貼っています(笑)。さらに『走魂賞』を制定したことで、ファンやスポンサーとともにチーム全体の企画として、『走魂』を体現しながら勝利を目指すことにしました。『走魂』とは何も走ることだけではありません。松井監督も言っているように、『ファンの皆さまの魂を揺さぶるようなプレー』もそうです。走攻守で『走魂』を体現した選手を首脳陣、ファンに選んでいただきたいと思います」(チーム統括部)
勝利のために球団内部の職員も奔走する。「走魂」の名の下に、今季の西武は球団が一体となって優勝へ向かって走り続ける。
文=小林光男