早慶戦でテンポの良い投球

慶大の4年生右腕・谷村は早大2回戦を7回1失点で、今季2勝目を挙げた
春のシーズン開幕前の戦力展望取材で、投手陣の話を聞いた際、慶大・堀井哲也監督のトーンが一つ上がったのを覚えている。
「この冬場で一番、伸びた。一生懸命、努力を重ねている」
179センチ右腕・
谷村然(4年・桐光学園高)に、期待を込めていた。3年秋までリーグ戦未登板。しかし、決して下を向くことなく、真摯に目の前の課題に取り組んでいたという。
中学時代に在籍した湘南ボーイズでは3年時のジャイアンツカップで優勝。「大器」として騒がれた桐光学園高時代は3年春、神奈川2位で関東大会8強。3年夏は県大会準決勝(対日大藤沢高)で敗退し、甲子園の土を踏むことはできなかった。145キロ右腕は、AO入試で難関の慶大入試を突破した。
3年間の鍛錬が、形となったのが今春だ。最終学年にしてリーグ戦デビューし、潜在能力を開花させている。主に2回戦の先発を任され、東大2回戦ではリーグ戦初勝利を、初完封で飾った。早大2回戦では、120年を迎えた伝統の早慶戦の先発マウンドを初めて踏んだ。今春から声出し応援が解禁。1回戦は今季最多2万6000人の大観衆で、盛り上がりを見せた。2回戦に向けた調整をしていた谷村は三塁ベンチ、ブルペンで興奮したという。
「声援の圧力。揺れるような感覚があった」
1回戦の独特なムードを体感した上で、2回戦は冷静に臨むことができた。この日の観衆は2万3000人。谷村は大声援を後押しに、好投を続けた。序盤から味方の大量援護もあったが、集中力を切らさず、7回4安打1失点。球数は100球とテンポの良い投球を披露した。
慶大は早慶戦の歴代最多得点差(15対1)で快勝し、対戦成績を1勝1敗のタイに持ち込んだ。谷村は今季2勝目。「すごく良い経験ができた」と、気持ち良さそうに汗を拭った。
すでに、明大のリーグ優勝(3連覇)が決まった中での早慶戦。Vに絡まない最終週のライバル対決だが2日間、熱狂の中で行われた。あくまでも勝ち点(2勝先勝)をかけた「対校戦」。堀井監督は試合後、しみじみと語った。
「この舞台でやれて幸せ。先人が築いてきた舞台を受け継いで、次につないでいく責任がある。点差、勝敗はつきましたが、お互い全力のゲームができている」
永遠の好敵手・早大を最大限リスペクトし「2回戦のような展開はない。ガップリ四つのゲームで、決着をつけたい」と、堀井監督は3回戦を見据えた。この3回戦で勝利し、今季3つ目の勝ち点を奪ったほうが3位。谷村をはじめ、4年生の意地がポイントである。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明