常に母校の戦況を気にして
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巨人での現役生活を終えた松田は亜大の現役学生により18回、胴上げされた
現役選手として一区切りした後、すぐに行動に移す。「熱男」の愛校心がにじみ出ていた。
10月1日に東京ドームでの引退セレモニーを終えたばかりの巨人・
松田宣浩が3日、母校・亜大を訪問した。
午前10時、野球部の活動拠点である日の出キャンパスに到着すると、大学4年間、汗を流したグラウンドで鈴木一央監督、大学関係者、野球部の後輩に挨拶し、引退の報告をした。
「巨人で1年、ホークスで17年、夢のような時間でした。大きなケガをせず、18年プレーできたのも、亜細亜大学硬式野球部で過ごした4年間の賜物です。個人個人が目標を持ち、自信を持って取り組めば必ず、次につながる。これからは一人のOBとして、応援していきます。グラウンドにもキャッチボール、球拾いに来るので、よろしくお願いいたします」
母校の戦況は、常に気にしている。この秋、亜大は東都大学リーグにおいて、開幕から3カード連続で勝ち点を落としており、最下位と苦戦が続く。残り2カード。松田は後輩たちに語りかけた。
「一人で野球をしてもパワーは小さいので、仲間を信じてプレーすれば、大きなエネルギーになる。一つになり、束になって乗り越えてほしい」
松田は亜大4年時、主将として激動の最終学年を過ごした。前年の不祥事を受けて、4年春は出場停止となり、東都二部へ自動降格。4年秋のラストシーズンは二部優勝へと導き、一部6位校との入れ替え戦を制し、一部復帰を手土産に卒業した。以降、亜大は今秋まで、一部の座を守り続けている。
「優勝することも大事なことですが、後輩たちへ一部のバトンを渡すことが、トータルの目標でした。来年春、一部で開幕が迎えられるように、残りの時間、4年生には頑張ってほしいと思います」
「一生、忘れることはない」
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母校へのグラウンド訪問で後輩を激励した最後は「熱男ポーズ」で締めた
激励のメッセージが終わると、現役部員による、現役年数に合わせた18回の胴上げ。
「一生、忘れることはない」
胴上げの後は部員全員と握手。「元気か?」「頑張れよ!」と、一人ひとりに声をかける気遣いを見せた。そして、最後は感謝を込めて「熱男ポーズ」で締めた。松田は学生たちに「1回しかやらんぞ! 形が大事やぞ!」と、左腰に手を添え、右拳を掲げる一連の所作をアドバイス。亜大グラウンドに「熱男!」が響き渡った。
今年8月から母校を指揮する亜大・鈴木監督は言う。
「引退して間もなく、バタバタしている時期にも関わらず、母校を思って足を運んでくれた。(チームは)苦しんでいるので、感謝の気持ちです。(松田から激励のあった)チーム一丸の姿勢は、前任の生田(勉)監督もつないできた亜細亜の伝統です。毎日『100人、全員でやるぞ!』と言っている。過去に入れ替え戦に回ったこともありますが、これが、東都の常。(青学大、国学院大との残り2カードで)勝ち点を取れるよう、精いっぱい、頑張らせます」
偉大な先輩がグラウンドから離れると、後輩たちは練習を再開。不変のモットーである「全力疾走」を胸に、グラウンドは活気に満ちていた。間違いなく、松田が発信した「熱男」が、亜大の流れを変えたのは言うまでもない。
文=岡本朋祐 写真=BBM