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先発ローテ剥奪危機からMVPの有力候補…「巨人を救った右腕」は

 

重苦しい雰囲気を断ち切った投球


9月15日の中日戦に中4日で先発した菅野


 ヤクルトに2連敗し、2位・阪神が2ゲーム差に迫ってきた。首位をキープしているが、正念場を迎えた巨人。重苦しい雰囲気を断ち切ったのが、菅野智之だった。

 今季初の中4日で先発登板した9月15日の中日戦(東京ドーム)。疲れは当然たまっているが、気迫を前面に出した投球でアウトを重ねる。4回に1点を失い、さらに一死二、三塁のピンチで村松開人をフォークで空振り三振、木下拓哉を直球で中飛に仕留めて最少失点で切り抜けた。6回に石川昂弥にソロを浴び、二死二、三塁のピンチを迎えたところで降板。二番手の高梨雄平が代打・宇佐見真吾に同点適時打を浴びたため、菅野の白星は消えたが、6回途中で10安打5三振3失点。35歳のベテラン右腕が奮闘する姿は、ナインにも伝わっている。6回に岡本和真が勝ち越しソロ、7回に吉川尚輝が中越え2点適時三塁打で突き放し、6対3で中日を振り切った。

スライダーのキレが復活


 菅野の活躍なしに、巨人はこの位置にいられない。今季は22試合登板で14勝2敗、防御率1.73。貯金12を積み上げている。昨年は4勝8敗、防御率3.36と自己ワーストの成績に終わり、先発ローテーションを保証される立場ではなくなったことを考えると、驚きの成績だ。なぜ、菅野は完全復活できたのか。

 他球団の打撃コーチはこう分析する。

「スライダーのキレが良くなったことが大きいと思います。昨年はコンディションに不安を抱えていたのか、スライダーのキレがあまり良いと感じなかった。今年は不安なく右腕を振っている印象がある。あとは厄介なのがフォークですね。今年は多投している印象があり、精度が非常に高い。スライダー、カットボールと横の変化で勝負するイメージが強かったですが、縦の変化をケアしなければいけなくなり投球に奥行きが広がった。直球の速さは20代のときより落ちていますが、変化球を操る投球を磨いたことで攻略が難しくなっています」

 心身共に充実しているのだろう。猛暑も夏バテ知らずで、高いパフォーマンスを見せている。7月28日のDeNA戦(横浜)で3年ぶりの完封勝利を飾ると、8月11日の中日戦(バンテリン)も9回途中まで1失点の好投で11勝目をマーク。7月14日のDeNA戦(東京ドーム)で2敗目を喫して以降、9試合登板で7勝0敗と抜群の安定感を誇る。リーグトップの数字で最多勝、最高勝率のタイトルを狙えるほか、チームが4年ぶりのリーグ優勝を飾ればMVPの最有力候補になるだろう。

モデルチェンジが成功


 野球評論家の伊原春樹氏は、「加齢とともに力で押しまくる投球だけでは抑え切れなくなる。21年は6勝、22年は10勝を挙げたが防御率は3点台。そして昨年の不振と限界説もささやかれるようになった。しかし、それを吹き飛ばす活躍。スライダーを内外角へうまく投げ分けるようになり、フォークも人さし指だけ縫い目にかける握りに変え、マイナーチェンジを遂げた。変化球主体の軟投派へモデルチェンジしたことが復活の大きな要因だろう」と週刊ベースボールのコラムで分析している。

 投球スタイルを変えることに成功できれば、選手寿命が延びる。伊原氏は近鉄のエースとして活躍した名投手の名前を挙げ、こう振り返っている。

「投球スタイル変更が功を奏した投手と言えば私にとって印象深いのが鈴木啓示さんだ。近鉄で歴代4位の通算317勝を挙げた左腕。鈴木さんも若手時代は直球を力任せに投げ込むスタイルだった。変化球はカーブだけ。それでも高卒2年目の1967年から5年連続20勝を挙げた。しかし、それだけでは勝てない時期がやってくる。73、74年は11勝13敗、12勝15敗と2年連続の負け越し。そのとき鈴木さんの意識を変える存在が現れた。阪急で黄金時代を築いた西本幸雄監督が74年、近鉄監督に就任。西本監督は『20勝するのは結構だが、負けをひとケタにしてくれ』と鈴木さんに求めたという」

「鈴木さんは反発を覚えたと言うが、何度も何度も同じことを諭し続ける西本監督に根負け。負け数を減らすために真っ向勝負ではなく、コントロール重視のスタイルに変更。スライダーやフォークもマスターし、投球の幅を広げた。スライダーは右打者の外角ボールゾーンからストライクゾーンに制球。フォークもスクリュー気味に右打者の外に曲げ低めに集めた。長池徳二さん(阪急)、大杉勝男さん(東映)、野村克也さん(南海)といった右の強打者をこの“技”で抑え込んだ。投球が進化した鈴木さんは77年には20勝、78年には25勝で最多勝を獲得している」

 シーズンは残り13試合。モデルチェンジが大成功した菅野は、最後まで輝き続けられるか。

写真=BBM
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