自己最長の8イニング
東大・渡辺は8回無失点。明大打線はフライアウトが多く、持ち味を発揮した。投球フォームは、父とそっくりだ[写真=矢野寿明]
【9月21日】東京六大学リーグ戦
明大10-0東大(明大1勝)
東大のサブマリン・渡辺向輝(3年・海城高)が明大1回戦で先発。開幕カードの早大2回戦に続き、リーグ戦2回目の先発マウンドで自己最長8イニングを投げ、4安打無失点に抑えた。父で元
ロッテの
渡辺俊介氏(日本製鉄かずさマジック監督)が、ネット裏で見守る中での力投だった。8回裏に八番・渡辺に打順が回り、代打を告げられ降板。チームは9回表に後続投手が10失点を喫し、接戦から一転して、0対10で初戦を落としている。
「9回に失点する状況になり、悔しい思いをした。自分が9回を投げ切って、チームが得点して、勝てる投手になりたいです」
明大・田中武宏監督は「早稲田戦と違って、丁寧に投げていた。戸惑いました」と称えた。また、2打数無安打に抑えられた三番・遊撃の主将・
宗山塁(4年・広陵高)は「見たことがない軌道で、難しさがあった。バッテリー中心にうまく打ち取られた」と振り返った。ドラフト1位候補の巧打者も攻略に苦戦した。
早大2回戦は2回7失点で敗戦投手。3四死球を与え、リズムに乗ることができなかった。中5日でしっかり立て直してきた背景には、卓越した学習能力と自己分析能力がある。
「早稲田戦は真っすぐしか入らず、そのボールを狙われた。今週までにすべての変化球でカウントが整えられる練習をしてきた。今日はストライク先行でいけました」
具体的に着手した練習内容はこうだ。
「球種ごとに、投げ方が違っていた。すべての球種で、投球フォームを統一する」
持ち球は最速131キロのストレートに、スライダー、シンカー、カーブ。独特な腕の位置から、真っすぐを投げ分ける器用さがある。
「カット気味、
シュート気味。サインにはありませんが、カウントを取りにいく緩いボールがあります」
緩急自在の投球に、タイミングを外された明大打線と、フライアウトを積み重ねた。「狙っているところ。良い傾向です」。今後、レベルアップする上での課題も明確だ。
「高めのつり球がまだ、使えるレベルにない。それが使えると、投球も楽になる」。
思考力が高い、練習の虫
試合後の取材対応で、質問者に対し「ありがとうございます」と必ず一言添える。実直な人間性がにじみ出ている[写真=矢野寿明]
海城高時代はオーバースローも、連投続きで「やむを得ず」と、肘を下げた。東大入学後はオーバーとアンダーで調整も、下手投げを選択。父は日本球界を代表するサブマリンとして、2度のWBC優勝も経験したレジェンドであるが……。「父の参考、マネはしていませんが、ムダを省いていくうち、結局は同じ形になった(苦笑)」。かつて「世界一低い」と言われた父のリリースに近づいている。
今夏は秋の先発を想定して週3回、1日200球の投げ込みを継続して、シーズンに備えてきた。「とにかく投げる筋肉、持久力をつける」。思考力が高い、練習の虫。「自分は野球エリートではない」という反骨心が支えでもある。167cm61kgが、神宮のマウンド上では大きく見える。いかにして、相手打者を抑えるか。努力と工夫を重ね、ここまで這い上がってきた。東大を勝利へと導く投手になる過程で、明大1回戦は大きなターニングポイントとなったはずだ。
文=岡本朋祐