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【大学野球】青学大が日大に劇的なサヨナラ勝利 指揮官からの信頼高い渡部海

 

ベンチの安藤監督は「予感」


青学大は日大に連勝して勝ち点2。9回裏にサヨナラ打を放った不動の正捕手・渡部は笑顔を見せた[写真=矢野寿明]


【9月26日】東都大学リーグ戦
青学大6x-5日大(青学大2勝)

 絵に描いたようなシーソーゲームだった。

 日大が1回表に四番・谷端将伍(3年・星稜高)の適時打で先制すると、青学大は3回裏、三番・小田康一郎(3年・中京高)と四番・松本龍哉(3年・盛岡大付高)のタイムリーで逆転した。日大は6回表、谷端の2ランで試合を引っ繰り返す。1点ビハインドの7回裏、小田の2ランで4対3。粘る日大は8回表に適時打2本で、再び1点のリードを奪う。

 4対5。最終回にドラマが待っていた。先頭打者は主将・佐々木泰(4年・県岐阜商高)。
一塁ベンチの安藤監督は「予感」していた。

「9回裏の攻撃を前に『絶対、行けるぞ!』と各々声が出ていた。イメージはできていた。ベンチも(佐々木を)信頼している。また、こういうところで回ってくるか、と。信じていた。また、何か起こしてくれるだろうと思っていました。やっぱり、やってくれた」

 集中力を研ぎ澄ます佐々木は、気迫の二塁打で出塁した。その後、二死満塁で迎えたのは六番・渡部海(2年・智弁和歌山高)だった。安藤監督は佐々木と並び、渡部への信頼度が高い。1年春からマスクを託した司令塔。その背景を指揮官は、過去にこう明かしていた。

「渡部は昨年2月、練習に初合流して以来、一度たりとも、ウォーミングアップで手を抜いた姿を見たことがありません。人間ですから、気分が乗らないこともある。でも、渡部はその波がありません。大したもんです」

 理由を聞くと、渡部は「動き一つひとつが野球につながるからです」と淡々と語る。日々の行動が、不動の「信頼」となった。

 青学大は今春までにリーグ3連覇、2年連続日本一。1年春からレギュラーを張る、渡部の足跡と重なる。「渡部のプレーには意図がある。1個1個に重みがある。V3の原動力? 間違いないです。欠かせないピース。スキがない」。安藤監督の賛辞が続いた。

 野球は、ミスが付きものである。象徴的なシーンがあった。今年6月、早大との全日本大学選手権決勝。双方無得点で迎えた4回裏無死一塁から、捕手前のバントを、渡部が一塁へ悪送球した。冷静さを失った。「やってしまった……と。頭が真っ白。周りの声も聞こえなかった」。渡部は本塁ベースカバーを怠り、さらに悪送球も重なり、先制点を許した。

 悪夢がよみがえる。昨年11月、慶大との明治神宮大会決勝。0対0の8回表、二ゴロ失策の後、捕手前のバントを渡部の捕球ミスにより、一死一、二塁。その後、一死満塁から押し出し四球と犠飛で、0対2で準優勝。年間タイトル4冠を目前で逃した。

バットでチームに貢献したい思い


 同じ過ちは、繰り返さない。渡部は智弁和歌山高時代の恩師・中谷仁監督からの言葉を思い出した。「ゲーム中に反省しない。メンタルの浮き沈みなく、同じことをやり続ける」。渡部には毎日、積み上げた練習量が支えにあった。なおも無死三塁のピンチも、気持ちを切り替え、好リードで導き、追加点を許さなかった。青学大は5回表、2本の適時打で逆転。2対1で、2年連続日本一を遂げた。

「アイツのミスだから、取り返せた。渡部に散々、助けられてきました。無言のメッセージで『救ってたろう』というムードになったんです」。安藤監督の信頼はさらに深まった。

 ギリギリの勝負。正捕手・渡部のストレスは想像以上だった。閉幕から数日後、額にできものができ、目元も腫れてきた。大学日本代表候補に選ばれ、最終選考合宿初日に球場へ向かうもヘルメット、帽子もかぶれず、練習に参加できなかった。最終日(3日目)の合流を目指したが、回復のメドが立たず、無念の辞退。「実力で落ちたわけではないので、悔しい。来年は選ばれるように結果を残したい」。この秋は「自分が打てば、得点力が上がる」と、守りに加えて、バットでもチームに貢献したい思いが強かった。

 もう一つの発奮材料があった。日大1回戦で死球を受けた四番・西川史礁(4年・龍谷大平安高)が、同2回戦を欠場していた。

「西川さんがいないことも想定して、大学日本代表の海外遠征(チェコ、オランダ)で不在のときも練習していました。『全員戦力』という形で取り組んできましたので、気にすることなく、全員で勝ちにいきました」

1点を追う9回裏二死満塁。六番・渡部は日大のエース・市川のフォークを左翼線へ運ぶサヨナラ打を放った[写真=矢野寿明]


 5対4で迎えた9回裏二死満塁。日大は1回戦で先発したエース右腕・市川祐(3年・関東第一高)を投入してきた。逃げ切りに、相手も必死だった。右打席に立った渡部は、1ボール1ストライクからの3球目のフォークを、左翼線に落とした。2人の走者が生還し6対5、劇的なサヨナラ勝ちを収めた。

「逆転した後に逆転され、すごく反省していた。チャンスで決められたので良かったです」

 自身の殊勲打を喜ぶ前に、ディフェンスの要・捕手としては、5失点を猛省するあたり、渡部は生粋の捕手である。智弁和歌山高では、2年夏の甲子園で全国制覇。安藤監督は当時から献身的なプレーに惚れ込み、何度も同校グラウンドに足を運んだ。3年時には高校日本代表でプレー。プロ志望届を提出していれば、指名は間違いないと言われていたが、2年冬の段階で進学を選択していた。熱血漢・安藤監督の下で「大学日本一」と、4年後の「ドラフト上位指名」を目指したのである。

 渡部はすでに2度の全日本大学選手権制覇を経験したが「4年連続優勝を目指す」と、目標設定は高い。青学大は開幕カードの国学院大に続き、日大戦で今季2つ目の勝ち点挙げた。まずはこの秋、リーグ4連覇と、昨年、目前で逃した明治神宮大会で頂点に立ち、悲願の年間タイトル4冠を狙っていく。

文=岡本朋祐
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