打線に活気を与える必勝パターン

1回裏二死三塁から相手投手の暴投で、三走・尾瀬は同点の生還。見事な走塁だった[写真=矢野寿明]
【10月7日】東京六大学リーグ戦第4週
早大4-1立大(早大2勝1敗)
瞬時の判断力が、試合の流れを大きく変えた。
早大の先発・
伊藤樹(3年・仙台育英高)は1回表、立大・桑垣秀野(3年・中京大中京高)に先頭打者本塁打を浴びた。
1点を追うその裏、一番・尾瀬雄大(3年・帝京高)が2球目を右前打。7季ぶりの天皇杯奪還を遂げた今春、不動の斬り込み隊長は12試合中、8試合で初回の第1打席で安打を放った。今秋も8試合目で、初回の安打は4回目。打線に活気を与える、早大の必勝パターンとなっている。
二番・山縣秀(4年・早大学院)の犠打と、三番・吉納翼(4年・東邦高)の二ゴロで二死三塁。四番・印出の4球目の変化球を、立大の捕手がボールをはじいた。やや逸れただけであり、微妙ではあったが、三塁走者・尾瀬は迷わず本塁へと突進。ヘッドスライディングで生還し、同点とした(記録は暴投)。
「走塁も常に練習している。相手のスキを狙う。ワンバウンドした瞬間に、狙ってやろうと思っていました」(尾瀬)
好走塁に早大・
小宮山悟監督もニンマリだ。
「先頭打者本塁打から始まって、多少、嫌な雰囲気の中で尾瀬が出て、見事な走塁だったと思います。イーブンどころか、勢いづいた」
早大は4回裏に山縣の適時二塁打で勝ち越すと、6回裏には吉納の犠飛で加点。7回裏二死三塁。小宮山監督は九番・伊藤樹の打順で代打・松江一輝(3年・桐光学園高)を送った。立大は申告敬遠。ここで迎えるは尾瀬だ。
「(尾瀬は)右、左(投手)だろうが普通に打てる。(代打で)勝負されたほうが嫌だったので、歩かせてもらったので……。しっかりした打撃。さすがだな、と」(小宮山監督)
左投手からうまく逆方向へ運び、左前適時打で、早大は決定的な4点目を挙げた。
「申告敬遠の後の打席は初めてだったので、燃えました!!」
尾瀬はこの日、3安打の活躍である。開幕カードの東大1回戦を除き、8試合中7戦で安打を記録(28打数10安打、打率.357)。今春は打率.479で初の首位打者を獲得しており、秋も好調を維持し、ヒットを量産している。
積み上げてきた自分のスイング

左から4回裏に勝ち越し適時打を放った山縣、尾瀬、7回1失点で今季4勝目を挙げた伊藤樹。早大は勝ち点3で単独トップに立った[写真=矢野寿明]
「自分のスイングをすれば、結果が出る。自分の打撃が、試合でもできている」
小宮山監督も認める努力家・尾瀬は、練習で自身の打撃フォームを体に染み込ませている。ポイントは2つ。
「下半身と体幹で打つ。フリー打撃では、中には気持ち良く打つ選手もいますが、自分には合いません。すべて同じ形、同じ打球を心がけています。タイミングがずれても、内、外にボールが来ても、センターよりも逆方向へのライナーを意識しています。積み上げてきた自分のスイングを1シーズンやり切る」
この日は右前、中前、左前と打ち分けた。今季限りで現役を引退した
ヤクルト・
青木宣親を彷彿とさせる広角打法。報道陣から早大の大先輩と打撃を比較されると、恐縮した。
「自分はまだ、かかわれるような人ではないので……(苦笑)。目標としている選手の一人です。青木さんのような逆方向へのヒットは、目指している打撃。素晴らしいお手本に、少しでも近づけるようになりたいです」
発奮材料があった。この春は自身初の打撃タイトルを獲得したものの、大学日本代表24人を選出する最終候補合宿に呼ばれなかった。早大からは伊藤樹、
印出太一(4年・中京大中京高)、山縣、吉納と4人が選出。大学日本代表は、チェコとオランダで開催された2つの国際大会で優勝した。尾瀬は悔しさを胸に、活動拠点・安部球場で黙々と汗を流した。8月の南魚沼キャンプ(新潟)を含めて、スイング量は誰にも負けない自負がある。
まずは、チームのための1本。第6週では天王山・明大戦が控える。尾瀬の初回の第1打席が、早大の命運を分けると言っていい。
文=岡本朋祐