チャンスをつかむ大切さを学んだ4年間
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明大2点リードの9回表二死走者なし。明大・宗山は遊ゴロを軽快にさばき、試合終了。キャプテンのホッとした表情が印象的だった[写真=矢野寿明]
【11月4日】東京六大学リーグ戦第8週
明大6−4法大(明大2勝)
親孝行息子である。
明大の主将・
宗山塁(4年・広陵高)は法大との最終カードを迎えていた。
広島からは父・伸吉さん、母・香代さん、姉・楓さんが神宮球場へ観戦に訪れていた。東京は遠方であり、そう簡単に足を運ぶことはできない。
1回戦(11月2日)は今季初の中止。恵みの雨だった。親子水入らずで食事ができたという。10月24日のドラフト会議では1位入札5球団競合の末に、
楽天が交渉権を獲得。宗山は実家に帰省した6月末以来となる家族との再会で、積もる話に花を咲かせた。
翌3日、明大は文化の日の法大1回戦で先勝。4日は振替休日のため、当初から3日間、東京に滞在する予定だった。1回戦後、父・伸吉さんは「仕事の都合で、明日は帰らないといけませんので、月曜日(4日)で決めてほしいですね」と語った。その声が届いたのか、明大は法大2回戦で連勝した。8勝3敗2分け、勝ち点4で全日程を終え、昨春以来のリーグ制覇に望みをつないだ。第9週に控えた首位・早大が慶大戦で1勝すれば優勝が決まるが、連敗すれば明大と同率で、優勝決定戦という星勘定。明大は待ちの立場だったが、1敗すればV逸の法大戦で、踏みとどまった。
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神宮球場で息子の試合を観戦する父・伸吉さん[右]と母・香代さん[左]。宗山は家族の愛に包まれて育った[写真=矢野寿明]
主将として明大をけん引する宗山は、現状でできる最大限のことをして、一区切りを迎えた。家族もリーグ戦の集大成を見届けることができた。両親は今秋、開幕2カード目の慶大戦も観戦した。宗山は1回戦でリーグ戦通算100安打、2回戦では通算10本塁打と、節目の数字をマーク。法大2回戦では2安打を放ち、歴代7位の通算118安打で4年間、8シーズンを駆け抜けた(仮に優勝決定戦となっても、通算成績には加算されず)。
今季は打率.400(50打数20安打)、2本塁打、12打点。通算では88試合、打率.344、10本塁打、60打点。3年秋終了時点で94安打。歴代1位の明大・
高山俊(2024年はオイシックス新潟でプレー)の131安打を視野に入れていたが、今春はケガによる離脱で5試合の出場(4安打)にとどまった。アクシデントがなく、フルで出場していれば……という発想にもなるが、こればかりは仕方ないこと。宗山は神宮に、確かな足跡を残した。
「大学通算100安打は良いバッターの基準であり、一つの目標に掲げていました。そこを超える結果を残すことができたのは、自分としては目標をクリアできた。1年春から試合に使っていただいたんですけど、最初は先発では出ていなかったので、一つのチャンスをつかむ大切さを、この4年間で学びました」
宗山は堅実な守備力が評価され1年春、東大との開幕カードから25人の登録メンバーに入った。代打出場、守備要員から明大・田中武宏監督の信頼をつかみ、シーズン途中からレギュラーに定着。以降、4年春のケガを除いては、不動の遊撃手として活躍した。
積み上げた118安打。歴代7位の数字については「そこは、監督にたくさんの試合で起用していただいたので、チャンスがあって達成できたので感謝したい。これからもっと、もっと打ちたいと思います」と語った。
笑顔で試合後の整列に
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1点を追う4回裏無死一塁から右中間二塁打で同点。第1打席に続く安打で、歴代7位の通算118安打で4年8シーズンを終えた[写真=矢野寿明]
法大2回戦。明大2点リードで迎えた9回表、二死からの打球を遊撃手・宗山が軽快にさばいて、ゲームセットとなった。野球とは、そういう巡り合わせがある。喜怒哀楽を見せない宗山が、笑顔で試合後の整列に加わった。
「(9回からは)浅利(浅利太門、4年・興國高)がマウンドに立っていて、シーズン終盤になるにつれて『浅利が投げてくれれば大丈夫』という安心感が増していました。最後、自分のところに飛んできて、自分で終わる形になって少しホッとしました。ドラフトで指名していただいて、一つ最後、良い形で終われたのでホッとした気持ちになりました」
ドラフト後、宗山を取り巻く環境は明らかに変わった。注目度がさらに増した。前日の1回戦後、神宮を引き揚げる際には、球場正面に多くのファンが出待ちしていた。
「そこ(注目)に関しては特に気にしていませんが、多くの観衆が足を運んでくださることは、すごくありがたいこと。東京六大学が盛り上がるのは、皆、うれしいと思うので、そこに貢献できたのは良かったです。これからは結果が求められ、結果を残していかないといけない立場になるので、自分を見に来てもらえるような選手になりたい」
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試合後は法大のエース・篠木[左、DeNA2位]と記念撮影。1年時から良きライバルとして切磋琢磨してきた仲であり、2人はプロ入り後も対戦も熱望する[写真=矢野寿明]
すでに、プロのとしての自覚が芽生えている。法大2回戦後は両校のエール交換に立ち会い、背番号10の主将は特別な時間を過ごした。
「この神宮球場で4年間、成長させてもらえたな、と振り返りました。応援がどれだけ大きいかも、ゲームに出させてもらって感じたことです。これまでを振り返って、感慨深いものがありました」
指導者、先輩、後輩、応援してくれるファンへの感謝は、語り尽くせない。宗山は記者会見の最後に、家族への思いを語った。
「ここまで野球を続けさせてもらったことに感謝したいですし、一番は元気にプレーしている姿。春はケガもあったので、そこを見てもらえたのは良かった。これからも、自分が活躍する姿を見てもらいたいと思います」
最高の親孝行ができた。宗山は広陵高から寮生活。たくさんの家族からのサポートがあって、大学までを過ごした。本当の意味での恩返しは、仕事として野球をするプロ入り後だ。
文=岡本朋祐