岡田監督に見いだされた藤川監督
2004年に岡田監督就任後、リリーフとして頭角を現した現役時代の藤川監督
新監督就任を機に、大ブレークする選手が出るケースがある。
岡田彰布前監督の時は、
村上頌樹だった。前年まで一軍で未勝利だったが、プロ3年目の昨年に22試合登板で10勝6敗1ホールド、防御率1.75と大活躍。抜群の制球力で最優秀防御率、新人王、MVPを受賞し、リーグ優勝、38年ぶりの日本一に大きく貢献した。
そして、岡田前監督が今季限りで勇退。後を継ぐ形で、
藤川球児監督が就任した。現役時代、若手で伸び悩んでいた藤川監督の才能を評価し、岡田前監督が抜擢したのは有名な逸話だ。過去に週刊ベースボールのコラムで、こう語っている。
「
阪神の剛腕と言えば、やっぱり江夏(
江夏豊)さんです。グラウンドでリアルタイムでは見てはいないが、画面を通して、スゴい球や……と感じていた。そんな江夏さん以来、タイガースに剛腕は出現していなかったが、そこに登場したのが藤川球児である。これまで何度も書いてきたけど、二軍監督時代から、球児の球筋、球質に大きな可能性を感じていた。だから04年からセットアッパーに起用したのだが、とにかくストレートを投げてくると分かっていても、バッターはバットに当てることができないんよね」
「甲子園の一塁ベンチから見ているとよく分かった。グラウンドより低い位置のベンチから見ると、球児のストレートはホームベースの手前で、ホップする(ように見えた)のだ。球速としては160キロ出ていない。しかし数字以上の体感をバッターは持っていたはず。もしバットに当たれば、何が起きるか分からない。何も起こさせないためには、バットに当てさせないことなんやけど、球児はそれができた」
ファームで好成績
きっかけをつかめば、大きく飛躍する――。藤川監督は「火の玉ストレート」を武器に球界を代表するリリーバーに進化。日米通算245セーブ、164ホールドをマークした。打者の手元でホップするような軌道の直球に、打者のバットが空を切る。大きなロマンを抱かせる投球スタイルだったが、その姿と重なる剛腕がいる。来季プロ5年目を迎える佐藤蓮だ。
最速155キロの直球は重くて速い。だが、一軍のマウンドは遠かった。制球難に苦しみ、四球で走者をためて痛打を浴びた。22年に右肘痛、腰痛などでウエスタン・リーグで9試合登板に終わり、育成契約に。昨季も19試合に登板で防御率6.04とファームで結果を残せなかった。大卒入団でファームに埋もれていれば立場が厳しくなる。背水の陣に追い込まれ、投球フォームの改造に踏み切る。テークバックを小さくしたフォームに変更すると、制球力が格段に上がった。今季はウエスタン・リーグで49試合登板し、2勝0敗3セーブ、防御率2.03。7月20日に支配下復帰すると、9月30日の
DeNA戦(甲子園)の7回に一軍初登板を飾り、
牧秀悟を153キロの直球で遊ゴロに仕留めるなど三者凡退に抑えた。
ドラフト同期に負けじと
一軍登板はこの1試合のみだったが、貴重な経験になった。秋季キャンプに参加する投手20人の中にも選ばれている。身長188センチの長身から常時150キロ以上を計測する直球は迫力十分。パワーカーブ、フォークも精度が上がり、奪三振能力が高い。
阪神の救援陣はハイレベルだ。
桐敷拓馬、
岩崎優、ハビー・ゲラ、
石井大智、
島本浩也、
岡留英貴、
富田蓮、
浜地真澄ら質の高い投手がそろう。佐藤蓮と同期入団の石井は自己最多の44試合登板で1勝1敗19ホールド、防御率1.35の好成績をマーク。石井だけではない。村上、
佐藤輝明、
伊藤将司、
中野拓夢と同期が次々に主力選手になり、「黄金ドラフト」と形容される。ドラフト3位で入団した佐藤蓮も負けられない。藤川監督の下で大輪の花を咲かせられるか。
写真=BBM