長い期間トップパフォーマンス

今季は2度目のセーブ王のタイトルを獲得したマルティネス
一人の右腕が他球団に移籍することで、球界の勢力図が大きく変化する可能性がある。
中日で3年契約が切れ、去就が注目される
ライデル・マルティネスだ。
国際大会「プレミア12」でキューバ代表に選出され、1試合に登板したがオープニングラウンドで敗退。悔しい結果に終わったが、その力を疑う者はいない。守護神としての実績は圧倒的だ。チームは球団史上初の3年連続最下位と低迷したが、60試合登板で2勝3敗43セーブ7ホールド、防御率1.09。自身2度目となる最多セーブのタイトルに輝いた。
他球団の打撃コーチは「9回までにリードされると、ライデルが出てくることを考えなければいけない。中日戦は8回までに決着をつける感覚で戦っていました。日本で8年間プレーしていますが、故障で離脱することなく長い期間トップパフォーマンスを維持している。
佐々木主浩さん(横浜、マリナーズ)、
岩瀬仁紀さん(中日)に並ぶ歴代屈指のクローザーだと思います」
リーグ優勝へ最強のピース
中日は是が非でも残留してほしい。今オフに就任した
井上一樹新監督が会食に誘い、熱い思いを伝えている。一方で、他球団も獲得に乗り出している。有力候補が
DeNAだ。今年は3位からCS、日本シリーズを勝ち抜いて26年ぶりの日本一を達成。歴史を塗り替えた。短期決戦では
森原康平、
坂本裕哉、
伊勢大夢、
中川颯、
山崎康晃、
佐々木千隼ら救援陣が奮闘したが、盤石とは言えない。今年の救援陣の防御率2.81はリーグ5位。4年ぶりのV奪回を飾った
巨人、2位の
阪神とは明らかに差があった。守護神を務めた森原は58試合登板で2勝6敗29セーブ11ホールド、防御率2.41。自己最多のセーブ数をマークしたが、6敗という数字は本人も納得していないだろう。
強敵として立ちはだかっていたマルティネスがDeNAに加入すれば、戦力アップとしての効果は計り知れない。森原を8回に回すことが可能になり、強力な勝利の方程式が組み立てられる。来季の27年ぶりのリーグ優勝に向け、最強のピースといえる。
一方で中日は、同一リーグのDeNAに絶対的守護神が流出する事態は避けたい。低迷期が続いている中でDeNAとの対戦成績は特に分が悪い。
立浪和義監督が就任以降は、22年が6勝18敗1分け、23年が8勝16敗1分け、今季は9勝15敗1分けと大きく負け越している。投手陣が破壊力抜群のDeNA打線に痛打を浴びるケースが多く、劣勢の試合展開を強いられて追いつけない。この状況でマルティネスがDeNAに移籍すれば、さらに手強い存在になる。
マルティネスの後継者候補

今季はチームトップの60試合に登板した清水
だが、チームの今後を考えると、マルティネスの後継者となる守護神候補が育ってきていることも事実だ。プレミア12で侍ジャパンのセットアッパーとして活躍した
清水達也は落差の鋭いフォークを武器に今季60試合登板で3勝1敗1セーブ36ホールド、防御率1.40をマーク。最速156キロの力強い直球とフォークが武器の
松山晋也も59試合登板で2勝3敗41ホールド、防御率1.33で、
桐敷拓馬(阪神)と分け合う形で最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した。
中日を取材するスポーツ紙記者は、「清水、松山は他球団だったら抑えを十分に務められるレベルの投手です。もしライデルが退団となれば大きな痛手になりますが、マネーゲームになれば退団はやむを得ない部分があります。残留してくれれば朗報ですが、他球団に流出を覚悟して救援陣を組み立て直すことを考えなければいけない」と指摘する。
マルティネスが育成入団から球界を代表するクローザーに上り詰めたように、その背中を追いかけていた同じく育成入団の松山、ドラフト4位で入団した清水が力をつけている。来季の巻き返しに向け、どのようにブルペン陣を構築するか。マルティネスの去就次第では松山や清水の野球人生が大きく変わることになるかもしれない。中日を愛する助っ人右腕の決断は――。
写真=BBM