最大の魅力はスピード

今季はセカンドでゴールデン・グラブ賞を獲得した吉川
開幕前は定位置を確約されていなかったが、プロ野球人生で最高のシーズンになった。4年ぶりのV奪回に大きく貢献した
巨人・
吉川尚輝だ。
プロ8年目で初のゴールデン・グラブ賞を獲得。広い守備範囲と球際の強さに定評があったが、今年は安定感も際立っていた。失策数は5つのみ。二塁手(規定以上)でリーグ最高の守備率.994を記録した。二塁で10年連続受賞した2位の名手・
菊池涼介に185票の大差をつける両リーグ最多の232票を集めた。二塁手部門での受賞は、
仁志敏久以来球団史上22年ぶりの快挙だった。
吉川は中京高、中京学院大で遊撃を守っていた。遊撃と二塁は動き方がまったく異なる。アマチュアとプロでは打球の強さ、球場によって天然芝、人工芝でバウンドの質が異なり対応力も求められる。入団時には
坂本勇人が「不動の遊撃手」として君臨していたため、吉川は二塁にコンバートされた。入団以来マンツーマンで指導していたのが、当時内野守備走塁コーチを務めた侍ジャパンの
井端弘和監督だった。2018年6月に週刊ベースボールのインタビューで、吉川について以下のように語っている。
「吉川は学生時代はショート一筋でプロに入ってからセカンドに移っているわけですが、ショートは捕ってからスローイングまで時間との戦いで、セカンドはそれよりも余裕がある分、捕球に力を注ごうと話しています。ただ、余裕があるからといって、脚を使わなくなることだけはやめようと。ショートと変わらない守備でいいから脚を使おうよと。そうじゃないと吉川の価値はなくなってしまいますから。いずれ、いつかはショートに戻すときが来るかもしれない。そのときに、脚を使わない、横着する選手になっていたら戻れませんからね。そこを意識しておくように伝えています」
「繰り返しになりますが、吉川の最大の魅力はスピード。これがなくなってしまったらただの人。守備範囲の広さもこのスピード(脚力)があるからこそです。大学の先輩に当たる菊池涼介(
広島)と比較しても、そのスピードと守備範囲に現段階でそん色はありません。違いは追いついてから、しっかりとアウトに取れるかどうか。この部分ではまだまだ差がありますね。最終的に、試合で最も重要なのはそこですから。スピードに安定性と身のこなしを兼ね備えることができれば、坂本(坂本勇人)と日本でも1、2を争う二遊間になると思いますよ」
V奪回に大きく貢献
他球団の選手から「天才」と称される野球センスで将来を嘱望されたが、故障が多いこともありなかなか殻を破れなかった。今季は期する思いが強かっただろう。二塁で全試合にスタメン出場。シーズン終盤には肋骨を痛めたが、痛み止めを服用して試合に出続けた。打率.287はチームトップ。優勝争いが佳境に入った9月は月間打率.375、2本塁打、11打点と攻守でチームを牽引し、V奪回に大きく貢献した。
侍ジャパンで二塁は最もレギュラー争いが激しいポジションと言われてきた。守備能力の高い菊池、前人未到の3度トリプルスリーを達成した
山田哲人(
ヤクルト)、本塁打王に2度輝いた実績を持つ
浅村栄斗(
楽天)と球界を代表する選手がズラリ。今月に開催されたプレミア12で一塁を守った
牧秀悟も本職は二塁だ。吉川は同大会のメンバーに選出されたが、左脇腹痛で出場を辞退した。二塁は
小園海斗(広島)がスタメンで出場する機会が多く、攻守で活躍が光った。
吉川は過去に五輪、WBCで出場経験がないが、29歳とこれから脂が乗りきる時期に入る。今後の活躍次第では26年に開催予定のWBCで、侍ジャパンのメンバーに選出される可能性は十分にある。日本を代表する二塁手へ。今年の活躍は十分に合格点をつけられるが、能力の高さを考えればまだまだ高水準の成績を残せる。来季はリーグ連覇を飾り、悲願の日本一を叶えるため、主将の
岡本和真と共にチームを引っ張る。
写真=BBM