週刊ベースボールONLINE

社会人野球リポート

【社会人野球】二大大会“年間8勝”で「常勝」の礎を築いた三菱重工East 勝因の一つは大川GMのマネジメント力

 

「編成」は構成する人間バランスがポイント


三菱重工Eastは2024年の社会人ベストナインに3人が選出された。左から山中、本間、対馬[写真=井田新輔]


 2024年度社会人野球年間表彰が12月12日、東京都内のホテルで行われた。ベストナインは7月の都市対抗で初優勝した三菱重工Eastから本間大暉投手(専大)、対馬和樹捕手(九州共立大)、山中稜真一塁手(青学大、オリックス4位指名)の3人が選出された。

 都市対抗でMVPにあたる橋戸賞を受賞した左腕・本間は、個人賞においても最優秀防御率賞を受賞し「常勝チームを目指して頑張っていきます」と来季への展望を語れば、バッテリーを組んだ対馬は「来年、Eastは連覇に挑戦できる年。捕手として、チームの力になりたい」と、さらなる飛躍を誓った。

 三菱重工Eastは11月の社会人日本選手権では4強進出。社会人野球における都市対抗との二大大会で年間8勝を挙げ「常勝」の礎を築いた。2024年、なぜ、強豪チームとしての確固たる地位を固めることができたのか。

 勝因の一つは、チーム編成の中枢にいる大川広誉GM(慶大)のマネジメントに尽きる。

 三菱重工は2021年、全国各地に4チームあった硬式野球部を2チームに再編・統合。三菱重工Westと三菱重工Eastとして新たなスタートを切った。スポーツを通じて感動を共有し、模範的な存在としてアマチュア球界の最高峰をリードすることを目指し「三菱重工スポーツチャレンジ」の理念を掲げた。

今年7月30日、三菱重工EastはJR東日本東北との都市対抗決勝を3対1で初優勝。東京ドームに歓喜が広がった[写真=矢野寿明]


 かつて三菱重工神戸を6年間、監督として率いた大川GMが編成トップを託され、この4年間の強化が実を結ぶ形となったのである。

「三菱重工スポーツチャレンジの下で活動を展開し、企業チームとしては初の日本一。正真正銘のトップアスリートからなる、強いチームを作ることがミッションでしたが、それを証明することができました。最初の3年でベースを作り、中期経営計画の2024事業計画(2024〜26)の3年のうちで、日本一を取るという目標を描いていた中で、達成第1号です。ある意味で、計画どおりに進みました」

 大川GMが手がける「編成」とは何か。

「一口で言っても、良い選手を集めるのではなく、構成する人間バランスが編成のポイントになります。監督、コーチ、マネジャー、選手、トレーナー、その他のチームスタッフ。オーケストラではありませんが、適材適所に良い人材をそろえられて、現場が期待に応えて、そのとおりに動いてくれました」

ターニングポイントは昨年の都市対抗


初の都市対抗制覇後、三菱重工EastのVメンバーは、佐伯監督の優勝インタビューを、すぐそばで聞き入った[写真=矢野寿明]


 チームを指揮する佐伯功監督(東北福祉大)は三菱重工名古屋を率いた18年に、社会人日本選手権を制した実績がある。キャリア十分ではあるが、再編・統合したチームを結束させるのは、相当な苦労がともなったという。

「私は、チームは監督の器以上に大きくはならないと思っています。名古屋とは環境、戦力も違います。就任当初は自分流のさい配をしていましたが、年を重ねるごとにやり方を変えてきた。ターニングポイントは、昨年の都市対抗です。勝てる、優勝できると手応えを得て東京ドームに乗り込みましたがベスト8。まだ、そこまでの力がないという現実を突きつけられたわけです。ありきたりですが、あの敗戦を機に、全員が本気になった。口で言っても、人から言われても、実感は持てない。現実に黒獅子旗に手が届く認識を持ち『ちゃんとやれば勝てる』と。2023年シーズンが終わった段階で『都市対抗優勝』を見据えて、次年度へのスタートを切りました。佐伯監督は自己暗示をかけていた部分もあると思います。チーム、自分自身も、その気にさせながら、佐伯自身も監督としてワンランク、意識が上がった。尻に火がついたのです。ただ一つの不安材料は(中心選手が)高年齢でしたので、24年も成長カーブを描けるのかの懸念がありましたが、その影響はなかったです」

 ベストナインの本間は30歳、正捕手の対馬は32歳、四番・小柳卓也(日体大)が33歳、主将・矢野幸耶(北陸大)、外野手の武田健吾(自由ケ丘高)、江越海地(長崎・海星高)が30歳と、経験豊富な布陣が頼もしかった。ベテラン勢に加え、2年目の山中、1年目の中前祐也(中大)、東芝から補強された下山悠介(慶大)、齊藤大輝(法大)の若手が融合。投手陣もチームの精神的支柱である31歳の大野亨輔(専大)、27歳の長島彰(中京学院大)に、3年目右腕・池内瞭馬(国学院大)が貴重な働きを見せた。大川GMが追い求めてきた戦力バランスが整い、機能したのである。

「Westも早く追いつかせたい」


 社会人野球で強豪と言われるチームの戦力は紙一重。どこが頂点に立ってもおかしくない。

「勝つ、勝たないは、強運がついていないといけない。自分たちではコントロールできない要素がある。勝ってもおかしくない準備、実力の上で、最後まで上り詰めたのは、幸運もあったと思います。一度(黒獅子旗を)、手にできたのは、来年以降にも生きてくる。お腹いっぱいか? と聞かれればそうではない。連覇、3連覇。ずっと勝ち続ける常勝チームを目指しています。私の仕事としては、いつもベスト4に以上に名を連ねるチーム状況にまで持っていく。勝ち負けは、その時次第の部分もある。来年はもっと強い手応えがあります」

 大川GMは言うまでもなく、三菱重工Eastに加え、三菱重工Westの強化も抜かりはない。

「EastはEastで強くなりつつあるが、Westも早く追いつかせたい。平均年齢が4歳違う(若い)んです。4年後、Westは今のEastになる。そして、さらにEastは強くなる。私の中でイメージしているのは、ベスト4に常に2チームが入り、覇権を争うのが理想の構図です」

 都市対抗で悲願の頂点に立っても、大川GMは「最高。こんな感じなのか……」と喜びに浸ったのも束の間「涙は出なかった。やってきたら、こうなるよね」と俯瞰している自分がいた。「一つ達成はしましたが、休んではいられない。周りも強くなっており、社会人野球そのものがレベルアップしている。チーム力の向上は激しいです。ライバルチームも黙ってはいない。ウチが火をつけているのは、間違いない。僕が休むと、チームは弱くなる」。王者だからこそ、現状に満足することなく、むしろ危機感が芽生えている。

「ウチはコンセプト、芯がしっかりしている」。再編・統合した2021年からのチームスローガン「“フェアプレー” “チャレンジ” “ビクトリー”〜正真正銘のトップアスリートからなる常勝チーム〜」は不変。揺るがない信念がある限り、チームはブレない。

 都市対抗初優勝以降、大川氏の下にはGMのノウハウについての問い合わせが相次いだ。

「どうしても、選手採用の部分がクローズアップされますが、それは氷山の一角。GM職の30分の1にも過ぎない。見えない部分で、たくさん仕事があります。あるチームに説明すると『ウチにはできない』と断念しました」

 チームを運営する以上、編成にゴールはない。より強固な集団を構築するため、大川GMは果てしない「強化」という名の道を突き進む。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング