キャンプで順調な調整

昨年は一軍で8勝をマークした井上
巨人の春季キャンプで順調な調整ぶりをアピールしているのが、プロ6年目の
井上温大だ。
2月17日に行われたシート打撃では、
大城卓三、
甲斐拓也、
岡本和真、トレイ・キャベッジ、
長野久義と2度ずつ対戦。1度目の登板では大城、甲斐、キャベッジ選手から三振を奪い、2度目の登板では岡本を高めの直球で空振り三振に仕留めた。他球団のスコアラーは「巨人の投手陣の中で、一番インパクトが大きかったのが井上ですね。まだ調整段階なのに、直球が150キロ近く出ている。自信を持って投げ込んでいるように見えます。出力が昨年よりさらに上がればなかなか打てない。先発の枠に当然入ってくるでしょうし、対策が必要になってくるでしょう」と警戒を口にした。
1年前と比べて、周囲の見る目がガラッと変わった。毎年のように期待の若手として名前が挙げられ、ファームでは打者を圧倒する投球をしていたが、一軍のマウンドで力を発揮できない時期が続いた。だが、昨年は春先に救援で好投を続けると、交流戦の途中から先発ローテーションに定着。150キロを超える直球に2種類のスライダー、フォークに加えて昨年11月のフェ
ニックス・リーグから左打者の胸元に食い込むツーシームを効果的に使った。25試合登板で8勝5敗、防御率2.76の好成績を残し、リーグ優勝に貢献。11月に開催されたプレミア12でも侍ジャパンに選出され、先発したオーストラリア戦で6回途中5安打8奪三振2失点の快投を見せた。
一時代を築いたエース左腕

通算135勝をマークした左腕・内海
巨人は
戸郷翔征、
山崎伊織が先発の柱として活躍する一方、生え抜きの左腕投手がなかなか一本立ちしなかった。最後に2ケタ勝利を挙げた左腕が2021年に11勝をマークした
高橋優貴(現ミキハウス)。だが、その後は白星を積み重ねられない。エース左腕として一時代を築いた投手が
内海哲也(現巨人投手コーチ)だ。最多勝に2度輝くなど通算135勝をマーク。チームをまとめる精神的支柱としてもナインの人望が厚かった。内海コーチは引退会見で「決して速くない真っすぐでしたけど、本格派左腕と自分に言い聞かせて、真っすぐを生かせるような練習をしてきたつもりでした」と語っていた。週刊ベースボールのインタビューで、この言葉の真意を聞かれると以下のように語っていた。
「左投手って、子どものころから、本格派と言われ続けるんです。とにかく右バッターのインコースにクロスファイアを投げ込んでいかないとダメだ、と。刷り込まれているんですよね(笑)。それに、実際に高校時代は球が速かったので。プロに入ってからは周りの投手のほうが球速も速い。『これじゃあ苦しいな』『本格派にはほど遠いな』と思っていたんですけど、本格派であることを追い求めなくなったら衰退してしまう、と。やっぱり、左投手はクロスファイアをしっかり投げ切ってナンボだと思います」
チームを背負ってきた左腕の信念
エースとしてチームを背負ってきた左腕には信念があった。
「僕が上原(
上原浩治)さんとかを見ていて感じたのは、絶対に負けられない試合ってあるじゃないですか。そこでエースと呼ばれている人は必ず登板が回ってきて、チームに勝利をもたらす。そういった投手がエースだと思います」
井上も左腕エースになれる資質は十分にある。2ケタ勝利はノルマで、さらに白星を上積みすることが求められる立場だ。他球団の同学年の投手を見ると、
佐々木朗希はポスティングシステムを利用してドジャースに移籍。同じ左腕の
宮城大弥(
オリックス)は2年目から3年連続2ケタ勝利をマークし、球界を代表する左腕への階段を駆け上がっている。ドラフト4位で入団した井上は巨人のエース、日本のエースになれるか。他球団のマークが厳しくなり、相手球団のエースと投げ合う機会も増えるだろう。今年は真価が問われるシーズンになる。
写真=BBM