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2025日本シリーズ

日本S第2戦で坂本誠志郎が審判に見せた気遣い 大学で学んだ「人間力野球」の真骨頂

 

「思いやり」を持つ扇の要


阪神の捕手・坂本は4回裏、ソフトバンク・山川のファウルチップが直撃した有隅球審を気遣った[写真=毛受亮介]


 かつて母校・明大を率いた善波達也元監督の言葉を思い出した。指揮官は現役時代に捕手。広澤克実氏(元阪神ほか)と同級生である。

「誠志郎は洞察力、視野が広い。文字どおり、扇の要。ゲームを支配する司令塔です。思いやりもある」

 坂本誠志郎は明大で1年秋から正捕手を務め、3度の東京六大学リーグ制覇に貢献した。いつもキャッチャーに多くの注文を出していた善波元監督も、坂本には全幅の信頼を寄せていた。4年時は主将。まさしく「グラウンドの監督」として、チームを動かしていた。

 阪神入団10年目の今季、自己最多117試合の出場で2リーグ制後、史上最速のリーグ優勝に大きく貢献した。1球1球に対して、意図を持ってリード。目を見れば一目瞭然。動作の一つひとつに魂がこもっており、藤川球児監督以下の首脳陣、投手陣、野手陣から慕われるのも理解できる。

 善波元監督がキャッチャーとしての資質で最も評価していたのが、冒頭の「思いやり」だった。人の心を読んで行動できる、人としての資質が優れていたのだ。日本シリーズという大舞台でも、とっさの振る舞いが出た。

 第2戦の4回裏。一死から打席に入った山川穂高の3球目、フルスイングしたファウルチップが有隅昭二球審の顔面に直撃した。マスクがずれるほどの衝撃である。坂本はすぐさま振り返り、有隅氏の肩に手を添えて支えた。首には相当のダメージがあったはず。1対9と大量リードされ、阪神としてみれば難しい展開。そんな状況下でも、いつも体を張っている捕手であるからこそ分かる気遣いを見せた。心配しながら声をかけると、有隅球審は問題なしと、その場でリアクションし、そのまま試合は続行された。

 ちなみに、有隅審判員は福岡県出身(九産大九州高)。生まれ育った地元・九州での「凱旋試合」であった。見守っていた多くの関係者も、何事もなく、ホッとしたはずである。今シリーズには計7人のNPB審判員が登録されているが、有隅審判員は最多7回目の出場。34年目、57歳と最もキャリアが豊富である。

 さて、今季限りでユニフォームを脱いだ巨人長野久義は現役引退会見で「本当にプロ野球は、審判員の方がいないとできないスポーツだと思うので、とにかく若い選手にも審判員の方をリスペクトしてプレーしてほしいと思います」と、メッセージを送っていた。

 アンパイアがいなければ試合は進行、成立しない。この日は、試合をマネジメントする球審のトラブル。一緒にゲームを作っていこうとする坂本の気配りに、スタンドから見た観衆、視聴者も胸が熱くなったのは間違いない。

 これこそが、坂本が明大での大学4年間で学んだ「人間力野球」の真骨頂である。野球以前の人格形成の重要性。一流のプロ野球選手が見せた所作からは、多くの学びがあった。

文=岡本朋祐
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