週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

【大学野球】西東京消防署と早稲田大学野球部による合同防災イベントはなぜ、練習以上の「価値」があったのか

 

地域防災力の向上


西東京消防署・新田徹署長[右]から早稲田大学野球部・香西一希主将[左]に感謝状が贈呈された[写真=BBM]


 防災と野球がコラボした画期的なイベントが初開催された。「野球場が、防災の学び場になる1日」。ワセダ『防災×スポーツ』チャレンジ! が2月15日、安部磯雄記念野球場(早稲田大学野球部グラウンド、東京都西東京市東伏見)で行われた。

 東京消防庁西東京消防署と早稲田大学野球部がタッグを組んだ。5歳から小学生までの子どもと保護者および近隣事業所等を対象とし、大規模地震等の災害時における「共助」の力の向上を目的とした、新たな地域連携の取り組みである。子育て世代、地域の事業所で活躍する人たちが「地域防災力の向上」について考え、実践する機会を創出。早稲田大学野球部は子どもたちへの野球新興にとどまらず、防災という社会的課題への取り組みについて向き合い、地域住民との交流を通じて、災害時に地域の力となることを目指した。

楽しみながら防災訓練


第一部は「消火活動」を見立てたストラックアウトなどスポーツ寄りのイベントで、子どもたちは楽しみながら防災訓練を体験した[写真=BBM]


 第一部は「ティーボール体験等」が行われた。野球部員が主体となったスポーツ寄りのイベントで、ティーボールのミニゲームのほか、消防的要素も盛り込んだストラックアウトなどで楽しみ、子どもたちと交流した。コンセプトは「楽しみながら防災訓練する」。ストラックアウトは1分以内にすべてをクリアすれば「消火」と、ゲーム感覚でエンジョイできた。さまざまなコンテンツは西東京消防署の若手職員が、この日のイベントのために独自のアイディアを出し、実現させた。

消防機関による救助は1パーセント程度


第二部の「リアル防災訓練」では緊急地震速報から、救出・救護・搬送を実施。地域住民とともに野球部員も真剣な表情で実体験した[写真=BBM]


 第二部の「リアル防災訓練」は大人と子どもを分けて行った。子どもについては消防的要素の入った「子ども防災体験」で、「○×ゲーム」などで楽しんだ。メーンとなる大人は「救出」「救護」「搬送」の訓練を実施した。東伏見に大地震が発生した想定で、緊急地震速報を流してスタートした。野球部が所有しているケージ、ネットや、タイヤなどで倒壊家屋を再現。消防職員の指示の下、バールやジャッキを使って救出する。救護班は止血、骨折を想定して固定の処置。最後にホームベース付近にあるゲージネットを救護所と見立て、搬送する。

 途中、余震の意味合いで、緊急地震速報が発令され、安全な場所へ移動して身を伏せて守る。余震が収まった後に、救出・救護・搬送を再開する。最後は大人と子どもが合流し、外野で「バケツリレー」を実施。ボールを水に見立て、ここにもエンタメ要素を入れ込み、チーム対抗で競争。ティーケージを火元に見立て、水槽の水(ボール)を早く入れたチームが勝利。「共助」の精神を養ったのである。

 消防署が訴えたいのは災害時、なかなか現場に到着できないという厳しい「現実」がある。火災、家屋の倒壊などで、道が封鎖されてしまえば、救助活動は著しく困難を極める。東京消防庁西東京消防署によれば、消防機関による救助は1パーセント程度にとどまるという。ここで、大切になるのは自らの命を守る「自助」と、地域が一体となって助け合う「共助」の意識を植え付けることなのだ。

「自助」「共助」がキーワード


大人、学生と子どもが協力する「ボールバケツリレー」では、水をボールに見立て、ゲーム形式で競争。ここもエンタメ要素が盛り込まれた[写真=BBM]


 東京消防庁西東京消防署の予防課長の成宮正起消防司令長は、イベント開催までの経緯をこう説明した。

「東伏見地区にスポットを当てて、地域住民の子育て世代を中心に事業所、商店街の方、そして早稲田大学野球部、それぞれがつながってともに助け合う、地域が連携する、そういったことを目的として、このイベントを企画いたしました。企画立案に際しては(西東京消防署に)早稲田大学野球部OB(予防課防火管理係広報担当・渡邊亮介氏)がいましたので、そこが架け橋となり、ご協力をしていただけないかという話を小宮山悟監督にさせていただいたところ、快く承諾をしていただき、この日を迎えることができました」

 目的について、成宮消防司令長はあらためて語った。

「今まで、いくつもの災害派遣をしてきたんですけども、自然災害の脅威というのは、人間の力ではどうにもならないところがあります。我々ができるのは防災、もしくは減災です。災害の被害を、いかに小さくするか。そのためには、やっぱりこうした『自助』『共助』この力が非常に大切になってきます。そのためには、地域の人たちが、顔の見える関係を築いていただき、ともに助け合い、何かあった時にはみんなで、大切な命を助けようと、そういったところが常に今まで持ってきたところですね。ともに助け合って、地域が連携してたくさんの命を守る。消防署としては、こうしたイベントを通して、地域の方に伝えていければなと思っております」

 工夫を凝らしたイベントは、最後まで子どもたちを飽きさせなかった。代表した子ども一人が実際に消火器を噴射。また、西東京消防署の職員が消防ダンス『火災予防うんどう!』を披露した。東京消防庁マスコット「キュータ」に加え、火災から人々を守るスーパーヒーローである「優マークマン」も登場。消防署の職員の制服、レスキュー隊の隊員服、執務服、救急隊の服を着用した計6人が軽快なダンスを見せ、会場を盛り上げた。閉会後はプレゼント抽選会。参加者は笑顔で帰途に就いた。

備えあれば憂いなし


この日は子ども88人、大人85人が参加。天気に恵まれ約3時間、各コンテンツを楽しみながらも、同時に多くを学ぶ機会となった[写真=BBM]


 野球部の現場サイドはどう受け止めたか。

 大学当局、早稲田大学野球部OB・OG会(稲門倶楽部)、また東京六大学野球連盟との調整役を担っている早大・岡村猛先輩理事は言う。

「社会貢献、地域貢献は大事なことです。(早稲田大学野球部の活動拠点である)安部球場のある東伏見キャンパス東伏見総合グラウンドは西東京市の『避難広場』に指定されています。スポーツと防災訓練が連携するのは初めての試みと聞いており、ノウハウを蓄積しながら継続していくことが大切であると考えます。東京六大学野球連盟の行事として毎年12月、各6校のグラウンドで『野球部グラウンドから広がる子どもたちの未来』を2023年から実施しています。加盟6校がそれぞれの活動拠点であるグラウンドを開放。大学と地域が一体となって、子どもたちの健やかな未来を育むことを目的としたイベントです。未就学児を対象にした野球教室、遊び場の提供として始めた野球の普及事業ですが、今回のようなティーボール体験等とリアル防災訓練を組み合わせた防災イベントも、他の大学でも横展開できるのではないかと思いました」

 稲門倶楽部・関口一行会長は成果を語る。

「社会貢献、地域貢献は大学の運動部に限らず、企業にも求められている時代です。今回の東京消防庁西東京消防署と早稲田大学野球部がタッグを組んだ防災イベントは近隣事業所も対象となっており、非常に有意義な時間だったと思います。5歳から小学生の子どもたちと保護者が参加しましたが、こうして早稲田大学野球部の部員たちと一緒に楽しんだ1日というのは、心に残る思い出にもなる」

 小宮山悟監督は閉会あいさつで総括した。

「午前中の短い時間でしたけれども、天気にも恵まれ、いろいろな経験ができたと思っております。本来でしたら、このような防災、救命であったりというようなことがない安全・安心な日常を送りたいんですけれども、人生何がどこで起きるか分からない。『備えあれば憂いなし』という言葉があります通り、万が一の場合、しっかりと経験できたということで、役に立つと思います。個人的には、1回やったぐらいではおそらく覚えられないので2回、3回とこうしたイベントで周知徹底できるように、我々も全力でイベント開催に向けて協力を惜しまず、尽くしていきたいと思っております。午前中という短い時間でしたが、次回以降もこのような機会があれば午前中に協力をし、午後からは彼らをこってり絞られるので、優勝に向けて頑張りたいと思います」

 閉会後、改めてイベントの感想を聞いた。

「実際に大地震が発生し、大変な状況になった時に慌てずに行動できますか? と言ったら、絶対にできない。ただ、訓練をしたという記憶があるだけで、たぶんプラスになるんです。さらに言えば、とっさに動けるようになるには、1回では無理だということです。定期的な防災訓練を含めて、やっていかないといけないんだろうなと思いました。この東伏見キャンパス全部が緊急避難所に指定されているので、学生にとって野球の練習も大事ですけど、万が一の時に備えて知識を得るということは、非常に大事だと思っています。OBの渡邊から話が来た時に、願ったり叶ったりということで『是非、お願いします』ということで、数日前にはAEDの使い方のレクチャーも受けたんです。学生たちにどれだけ届いたか分からないですけど、国民として、もしものときにやらなければならないことを学習する機会に恵まれたことに感謝します」

 学生としての「学び」。野球以外の取り組みが、人としての力を高める。結果的に技術向上、チーム力アップ、結果につながるのだ。

「半日でしたけど、それを(イベントに)費やすことで、野球に悪影響が出るなんてことはまずないので……。むしろ、人として、必要最低限の知識を得られたということで言えば、大変ありがたい機会でしたので、感謝です」

新たな知見


 第116代主将・香西一希(4年・九州国際大付高)も十分に、その趣旨を理解している。

「自分自身、こういったイベントに参加させていただくのは初めてで、野球部としては年に何度か『遊び場開放』ということでグラウンドを開放して地域の方々に使っていただくということはしているのですが、こうやって消防庁の方と連携を取ってということは初めてでしたので、すごく新鮮な気持ちで防災の知識を身につけられたかなと思います。防災は部屋にいる時、グラウンドにいる時、いつ起こるかわからないものなので、そうした状況が本当に起こった時に、みんながそれぞれ今日学んだ知識を生かして素早い対応、行動ができる、そういった学びをさせていただいたなと思います。先日も早稲田大学野球部OBの渡邊さんに救急、応急救護の講習を開いていただいて、野球もすごく危険なスポーツなので、何か起きた時に全員が知識を持って日々生活していきたいなと思っております」

 第一部はティーボール体験等を通じて子どもたちと触れ合い、第二部はリアル防災訓練。約3時間のイベントは、通常練習では得ることができない多くの「財産」を手にした。香西主将は最後にこう言った。

「第一部の方では、一人でも多くの子どもたちに野球の楽しさであったり、スポーツの素晴らしさというのを届けるのが使命だと思っているので、こうして一緒にティーボール、ストラックアウトを通して、野球の楽しさを知ってもらえたのであれば、すごくいい時間だったと思います。第二部はいつどこで起こるか分からないのが自然災害なので、そういった状況をこのグラウンドで訓練することができたというのは、これからの自分たちの生活にとっても生きてくる。練習以上の価値がある時間を過ごさせていただいたなと思います」

 香西主将、また、開催に際して尽力した稲門倶楽部・國定薫会長補佐に西東京消防署から感謝状が贈呈された。野球部が常日ごろから何不自由なく活動できているのも、地域社会との共存があってこそ。今回の消防署と野球部による合同防災イベントを通じて、学生たちは将来につながる新たな知見を得られた。

取材・文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング