ウォーミングアップで鼓舞

桐蔭横浜大で学生コーチを務める3年生・大久保は、齊藤監督のほか指導陣とともに、チームを動かしている[写真=BBM]
桐蔭横浜大は2024年春以来の神奈川大学リーグ戦での優勝を目指している。神奈川工科大との開幕カードは1回戦を落としたものの2回戦で雪辱。勝ち点をかけた3回戦(9月15日)は10対5で快勝した。残り4カード、積み上げてきた取り組みを発揮するだけである。
控え部員とともに25人の選手を応援しつつ、戦況をじっと見守っていたのは大久保泰良学生コーチ(3年・戸塚高)だ。リーグ戦の登録人数の事情により、ベンチ入りはせず、試合前のウォーミングアップまでチームを鼓舞。モチベーションを高めて、試合に臨ませている。普段の練習は齊藤博久監督と密に連携を取り、メニューを動かしている。ノック、打撃投手のほか、サポート役は多岐にわたる。すべては選手のために、汗を流している。
地元・神奈川の県立校・戸塚高では主将と右腕エースと二つの大役をこなした。3年夏はエース左腕・
杉山遙希(
西武)、主将・
緒方漣(国学院大3年)を擁した横浜高との神奈川大会3回戦で敗退。同夏は慶應義塾高が県代表校として、甲子園で107年ぶり2度目の全国制覇を遂げているが、一番・丸田湊斗(慶大3年)とは中学時代に在籍した横浜泉中央ボーイズでチームメートだった。「自分は5、6番手でベンチに入れるか、入れないかの投手でした」。
将来的な指導者を志し、齊藤監督を慕い、桐蔭横浜大へ進学。学生コーチとして野球部に入部した。一学年上の代には同ポストがおらず、大久保は3年時からチーフの立場を任されている(現在3年生2人、2年生1人)。一般的に学生が主体で運営する大学野球は、渉外担当のマネジャーと、グラウンドを管理する学生コーチの資質が重要で、チームの方向性が決まると言われている。2人の裏方は、指導者の方針を学生に落とし込む役割が求められる。
「私は後輩の立場ですが、役職上、先輩にも指示を出さなくてはいけない。ときには言いづらいことも指摘しないといけない。一学年上の4年生は坪井蒼汰主将(4年・山村学園高)をはじめとして協力的で、やりやすい環境を整えてくれる。とてもありがたいです」
リーダーシップを発揮

8月25日、神奈川大学野球連盟77周年記念事業の野球教室では中学生を対象に丁寧な指導を展開した[写真=BBM]
今秋の開幕前、大久保は学生コーチとして存在感を発揮している。神奈川大学野球連盟77周年記念事業が8月25日、横浜スタジアムで行われた。神奈川大学野球連盟代表と東京六大学野球連盟代表による交流試合を前にして、中学生を対象にした野球教室が開催。事前準備から当日の流れを取り仕切ったのが、
大久保学生コーチであった。
「前日までの準備段階は齊藤監督が中心となって、横浜市立大学の臼杵監督(大輔、神奈川大学野球連盟常務理事)との打ち合わせにも参加させていただきました。計2回にわたり、長めのミーティングを実施。実際に、中学の軟式野球を教えている指導者の方に意見を伺って、何を求めているのか、何が喜ばれるのかをリサーチさせていただきました」
苦労話を明かす。
「参加人数が想定していたよりも多くなり、ボールが足りない、と……。(系列の)桐蔭学園中学校のテニス部から不要となったテニスボールを借りたり、また、打撃練習で横浜スタジアムの人工芝を傷めないように、マット代わりの芝を用意して、当日を迎えました」
野球教室当日は酷暑であり、水分補給を挟みながら、約2時間のイベントを円滑に進めた。すべては、入念な準備の賜物である。
「東京六大学野球連盟さんの選手はこうした野球教室に慣れており、こちらの意図を汲んで動いていただき、ありがたかったです。神奈川大学野球連盟の加盟校の部員も、丁寧に指導する姿が見られたので良かったです。運営に携わってくれた両連盟のマネジャーにも大変、助けられました。学生で一つの記念行事をつくり上げるという観点からも、良い時間を過ごせました」
「見聞を広げたい」と語る大学生活
人を動かすリーダーシップに長ける大久保学生コーチ。大学卒業後は高校野球の指導者になりたいという思いがある。
「高校時代は強豪私学を倒すことをモチベーションにやってきましたので、それが将来、公立高校の指導者として実践できたら一番うれしいです。一方、大学で3年間活動する中で、多人数で、強豪と呼ばれる組織で本気で日本一を目指す野球にも魅力を感じました。いろいろと勉強をしていきたいです」
指導者は選択肢の一つ。「見聞を広げていきたいです」。人脈が広く、知見のある齊藤監督と日々接する中で、野球以外の仕事にも興味を持つようになった。チーム強化のために動くのと並行して、将来の生き方を模索する「自分探し」も始めている。
学校生活の充実を図りながらまずは、秋のリーグ戦に集中する。
「日本一というチーム目標があります。まず、この秋は、4年生を良い形で送り出す。そこで、勝ちグセと言いますか、チームとしての骨格をしっかりとつくり、来年以降につなげていきたいと思います」
齊藤監督からは「指導者」として、学ぶことがある。
「ブレないんです。試合に勝っても負けても、もっと先を見据えている。目の前の結果ではなくて、トータルで物事を考える。自分たちは目先の感情に左右されがちですが、一番上に立つ人間として、ビジョンを明確にしないといけない。日々、勉強です」
有能な学生コーチが在籍するチームは強い。その強さとは、その場限りではなく、次の世代へとつなげるのが使命。いかに充実した大学4年間を過ごし、社会へと巣立つのか。野球の結果だけではない、さまざまな人としての価値観を野球が教えてくれる。大久保学生コーチは一歩引いた目線から、チーム運営に尽力する。
取材・文=岡本朋祐