3連覇をめざすオリックスが今年も上位で戦っている。投打ともに力を発揮し、雰囲気も明るい。チームを21年、22年とコーチ兼任投手として支えた能見篤史さん(元阪神、オリックス)は、選手たちから絶大な信頼を得てきた。能見さんはどんな場面で、どんな言葉をかけていたのか。6月に刊行された初の自著『#みんな大好き能見さんの美学』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋しご紹介しよう。今回は、杉本裕太郎への言葉。 純粋すぎる、かわいいヤツ

2021年は本塁打王に輝き、昨年は日本シリーズMVPを獲得した杉本
ラオウの愛称で親しまれている杉本は苦手なコースを攻められたとき、表情に出るタイプです。意識して練習している分、思わず出てしまう選手は少なくないのですが、ラオウはそれが激しい。
たとえば彼はインコースが苦手で、それが顔に出ます。
「それ、顔に出さないほうがいいよ。ここが苦手ですと言っているようなものだから。ピッチャーはどんどん攻めてくるよ」
そう言って諭したこともあるのですが、そもそも打席に入ったとき、「僕は今、状態が悪いです」と宣言しているようなオーラが出てしまいます。自分の中の迷いが、すべて外に出てしまうんですね。
「あのさぁ、そんなの出して得することは一つもないよ」
何度も言いました。ピッチャーからすると「よしよし、ラッキー」となりますからね。完全に見下ろされてしまいます。力はラオウのほうが上でも、立場が逆転してしまうのです。
「状態が悪くても打席では堂々と。打ち取られても堂々とベンチに帰って来い。悠然としていれば、ピッチャーは見抜けないから」
僕のアドバイスを素直に実践したラオウは、ベンチに帰って来て言いました。
「どうでした? どうでした?」
かわいいヤツです。
吉田正尚クラスになると、自分の修正ポイントをちゃんと持っているので、調子が落ちても復活が早い。でもラオウはまだそれを確立できていないから、悪くなるととことん落ちて行きます。そして、最終的に訳が分からなくなって、「僕、どうなってます?」と聞いて来る。完全に迷路にハマった状態のときです。
純粋すぎて笑えますが、伸びしろはめっちゃあります。まだまだモロさはあるものの、一つのきっかけで大化けする可能性大。何しろ22年の日本シリーズMVPですからね。正尚が抜けた穴を埋めてもらいましょう。
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