
ドジャースとの入団会見を行ったスネル[中央]。大谷同様に後払い契約を結んだ。18年と23年の2度サイ・ヤング賞を獲得した左腕の加入は、先発不足のドジャースにとって好材料だ
ドジャースが左腕ブレイク・スネルと5年総額1億8200万ドル、その内6600万ドルが後払いの契約を結んだ。トミー・エドマンとも5年総額7400万ドル、その内2500万ドルが後払いとなった。
これでドジャースは2028年から46年にかけて7人の選手に対して10億650万ドルの後払いをすることになる。これに対しニューヨークポスト紙が「不公平に見える」と指摘。ほかの現地メディアでも「優勝を金で買っている」と批判的な論調が出ている。
とはいえMLBの労使協定では、何十年も前からサラリーの後払いを認めている。有名なのは元メッツのボビー・ボニーヤで、01年を最後に引退したが、11年から35年まで毎年120万ドルをメッツから受け取っている。メッツは現役選手のフランシスコ・リンドーアとエドウィン・
ディアスにも32年~42年にかけて総額7650万ドルを払う予定。レッドソックスもスター選手ラファエル・デバースに34年~43年にかけて7500万ドルを支払う。
しかしながらドジャースほど、この仕組みを徹底的に活用しているチームはない。おかげでぜいたく税に対しての計算上のサラリー総額を抑えられ、スター軍団がさらに才能ある選手を獲得する余地が生まれている。ニューヨークポスト紙は「この仕組みが不公平に見えるとしても、少なくとも現在の労使協定が失効する26年12月までは続く」と嘆いている。
とはいえ、他球団はお金さえあればドジャースと同じことができるとは限らない。ブルージェイズのロス・アトキンスGMは、契約で後払いが増えていると思うかと聞かれると「特に増えているとは感じないが、チーム、代理人、選手がこのアイデアにオープンになっているのは確か。ただ選手によって優先順位が異なる。
大谷翔平選手の場合、チームに柔軟性を持たせることが大事と言っていた」と振り返る。スネルは3日の入団会見で、「ワールド・シリーズ制覇を毎年やり遂げたいというチームの強い思いを手助けできる。これ以上の場所はない」と選択理由を語った。
約1年前、大谷は10年総額7億ドルの契約で6億8000万ドルを後払いとし、マーク・ウォルターオーナーは「翔平は、彼の周りに最高のチームを編成できるようにと提案してくれた」と感謝した。ほかの選手も大谷の考えに賛同している。そして球団も同じ姿勢だ。米データサイト「ファングラフス」によると、ドジャースのぜいたく税計算上の総額はすでに3億520万ドルに到達しており、ぜいたく税の最も高いラインも超えているが、それでもさらに前進しようとしている。
アンドリュー・フリードマン編成本部長は「私たちが翔平と約束したのは、チャンピオンを目指して積極的に行動するということ。その責任を果たさなければならない。勝つのは難しいし、それを繰り返すのはもっと難しい」と言う。良い結果が出て儲かったとき、それを懐に入れたがるオーナーがいる。だが、ドジャースはもっと強くなるためにさらに投資する。その強い姿勢に魅かれた選手たちがさらに集まってくる。
最高のチームを作る、大谷のビジョンに賛同する仲間たちで、野球界に新しい王朝を築こうとしている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images