
ブルージェイズの主砲・ゲレーロ・ジュニア。現代理論に合致しないスイングでも、バットを振れば誰よりも高い確率で強い打球を放っている。その才能は、2018年に殿堂入りをした父親のゲレーロ・シニア譲りだ
ブルージェイズの主砲ウラジーミル・ゲレーロ・ジュニアが、ポストシーズンで打ちまくっている。地区シリーズのヤンキース戦では17打数9安打、3本塁打9打点。ア・リーグ優勝決定シリーズのマリナーズ戦では26打数10安打、3本塁打3打点。そしてワールド・シリーズでは5戦目までで22打数8安打、2本塁打3打点。ポストシーズン全体のOPSは1.337である。2021年のゲレーロ・ジュニアは、打率.331、出塁率.401、長打率.601、OPS1.002、48本塁打を放ち、ア・リーグMVP投票で
大谷翔平につぐ2位となった。
当時は、このままエリート打者として君臨し続けると思われたが、その後は数字が伸び悩んだ。オールスター常連ではあるものの、アーロン・ジャッジや大谷のレベルには届かない。その理由の一つが「アタックアングル」にあると考えられる。
現代の打撃最適化理論では、打球を遠くへ飛ばすためには、バットがボールに当たる瞬間のスイング軌道(アタックアングル)が上向き、すなわち+10度前後が理想とされる。角度がプラスなら打球は上がりやすく、ホームランになりやすい。一方、水平やマイナス(下向き)のスイング角ではゴロが多くなる。今季の大谷とカイル・シュワーバーは約15度、ジャッジは14度だったが、ゲレーロ・ジュニアはわずか1度にすぎない。結果打球はあまり上がらず、今季も23本塁打、長打率.467、OPS.848と、エリート打者としてはやや物足りない。
しかしながらそれでもゲレーロ・ジュニアは「怖い」し、「打ち取りにくい打者」である。平均バット速度76.8マイルは全体8位。バットの芯でとらえた“スクエアアップ率”はスイング当たり29.3%と、大谷(24.9%)やジャッジ(23.1%)を上回る。さらにスイング当たりのハードヒット率(95マイル以上の打球割合)は24%で、全体1位だ。
つまり、現代理論に合致しないスイングでも、バットを振れば誰よりも高い確率で強い打球を放てる。その才能は、父ウラジーミル・ゲレーロ・シニア譲りかもしれない。父は腕の長さと可動域の広さ、手首と前腕の強靭じんなバネ、そしてどんなコースのボールにも芯で当てる反射神経を兼ね備え、殿堂入り(18年)を果たした。
シニアがかつて所属したモントリオール・エクスポズ時代、息子は3歳、4歳と幼かったが、父に連れられてフィールドに現れ、外野で球を追い、ケージ裏では父の“バットの揺らぎ”をマネしていた。あれから20年以上が経ち、幼な子は、カナダ唯一のメジャー球団をワールド・シリーズへ導く主役となっている。
ゲレーロ・ジュニアはワールド・シリーズ前の会見で、「父はワールド・シリーズの優勝を経験できなかった。だから、それを成し遂げることがいつだって僕の目標です。自分のために父のために」と語った。両親との絆は今も深い。
「父だけじゃなく母とも毎日話します。試合の前にも後にも、必ず。勝っても負けても関係ない。毎日、両親のおまじないが必要なんです」と微笑んでいる。その声の奥には、フィールドの片隅で父のスイングをマネしていたころの記憶が息づいている。殿堂入りした父が築いた軌跡の先に、今、息子は自らの腕で新たな歴史を刻もうとしている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images