「1回戦で勝ち切れば……」

　東大が1月12日、2025年の活動をスタートさせた。昨秋、リーグ戦初勝利を挙げた右下手投げの渡辺向輝(4年・海城高)にとって、野球人生をかけた大勝負の1年となる。父はロッテなどで活躍した渡辺俊介氏(日本製鉄かずさマジック監督)だ。

　25年、渡辺には明確なテーマがある。

「他大学のエースピッチャーと投げ合って、勝てる投手になりたい。昨秋はチームとして2勝を挙げましたが、いずれも2回戦(対法大、対慶大)だったんです。シーズン途中から第1先発を任されており、1回戦で勝ち切れば、一つ、成長できたと実感できる」

　早大・伊藤樹(4年・仙台育英高)、慶大・外丸東眞(4年・前橋育英高)、明大・高須大雅(4年・静岡高)、立大・小畠一心(4年・智弁学園高)ら各校の主戦投手との直接対決を制すれば、当然、評価も高まってくる。

　最速130キロだが、ほとんどが120キロ台前半から中盤。コントロール重視で、あえて球速は封印している。制球力と緩急自在の投球で、相手打者に的を絞らせないのが持ち味だ。

「リーグ戦で、真っすぐは打たれていないんです。(投球スタイルを)変えることは考えていません。大量失点につながる本塁打や長打を減らし、1イニングを1、2失点でしのぐ。(リーグ戦を通じて)打てる試合も限られてくるので、運も大事になる。チームで勝ち点を挙げると言っているので、自分が投げている試合でシーズン2勝はしないといけないというのがマストである」

社会人野球は考えていない

　東京六大学で確固たる実績を残し、気になるのは卒業後の進路である。年末年始で帰省した際、父・俊介さんとは進路については話をしなかった。渡辺は慎重に言葉を選ぶ。

「出せるだけの実績を残せば、プロ志望届を提出したいと思いますが、現状では出せないかな、と。プロの可能性が見えてきたら、野球を続けたいと思います」

　社会人野球は考えていない。父は国学院栃木高、国学院大、新日鉄君津を経てプロ入りした。かねてから野球人の父を意識してきた。猛勉強して、東大に現役合格したのも、父とは異なるルートを歩みたい思いからだった。

「社会人で野球を続けるより、会社員として仕事がしたいというのが個人としてある。社会人野球のレベルが高いことは十分、理解していますが、社会人に野球で進むと、自分の父親と同じ経歴になってしまうというのがあって……。もし野球を続けるなら、そこを一つ超えたいというのがある」

　プロ志望の「基準」を設定している。

「大学日本代表の候補合宿に行けるくらいになったら(プロ志望届を)出す可能性があると考えています。昨年は東京六大学の推薦を受けることはできましたが、大学日本代表候補に入ることはできなかった。そこを一つ、乗り越えれば、可能性も生まれてくると思う」

　例年、6月上旬に代表候補約50人が発表され、同中旬の最終選考合宿に招集される流れだ。この段階で「一つ考える」と、野球人生のターニングポイントとする意向を示した。

　就任2年目の東大・大久保裕監督は「渡辺は柱。うまくいかないこともあるかもしれないが、はまると完投する力もある」と期待を寄せる。サブマリン・渡辺は1998年春から54シーズン続く、最下位脱出の救世主となる。

文=岡本朋祐