「手打ち野球」がルーツ

侍ジャパンチャレンジカップ第2回Baseball5日本選手権が開催。斎藤佑樹氏[右]がスーパーバイザーに就任した。左は全日本野球協会・山中正竹会長[写真=BBM]
プロバスケットボールのBリーグでも使用される試合会場の「アリーナ立川立飛」は、熱気に包まれていた。大音量のクラブミュージックが絶え間なく流れており、アリーナMC、DJがワンプレーごとに実況し、スタンドの観衆を巻き込んでいく。コンセプトは「必要なのはボール一つだけ。ボール一つでダイヤモンドに革命を起こす」。目の前で展開されていたのは「Baseball5」である。
侍ジャパンチャレンジカップ第2回Baseball5日本選手権が1月13日に行われ、オープンの部(15歳以上)、ユースの部(高校1~3年)で各8チームが参加し、日本一をかけて戦った。
WBSC(世界野球ソフトボール連盟)が2017年、野球・ソフトボールの振興を目的に始まった。キューバの街中で遊ばれていた「手打ち野球」がルーツだ。「手軽に」「短時間で」「スタイリッシュ」。3×3バスケットボール、スケートボード、スポーツクライミングなど、新時代が求めるアーバンスポーツであり、遊びから進化したベースボール型競技だ。
野球の内野よりも小さい21メートル四方のフィールドで、広場、公園、ビーチ、芝生、タイル、コンクリート、砂の上など、屋内・屋外問わず、どこでもできるのがメリット。場所に制限がないストリート競技である。
基本的なルールは野球・ソフトボールと同じだが、圧倒的に異なるのは試合時間。打者自らが打つ「手打ち」で、1球で勝負がつき、攻守交代の展開がスピーディーで、1試合約30分で終了する。1チーム5人制。男女混合競技で、交流やコミュニケーションを取るのに最適。対戦チームとも親睦を図れる。ジュニアからシニアまで老若男女、幅広い世代が「真剣勝負」を通じて楽しめる。スポーツの持つ吸引力が詰まっているのだ。アフリカ、ヨーロッパなど施設、用具が恵まれていない地域でも、ゴムボール一つだけで熱狂できる。
日本も「普及・強化」

開会式では出場16チームによる集合写真。会場内は盛り上がりを見せた[写真=BBM]
世界80カ国以上で広がりを見せており、日本も「普及・強化」に本腰を入れている。その目玉として、斎藤佑樹氏(元
日本ハム)がスーパーバイザーに就任。侍ジャパンチャレンジカップ第2回Baseball5日本選手権の開会式では始打式(ファースト・ヒット・セレモニー)を披露した。主催者の全日本野球協会・山中正竹会長は、就任要請の経緯を語る。
「WBSCは野球・ソフトボールを普及するためにBaseball5立ち上げましたが、野球とは違う魅力があって、独立した競技になると確信しています。日本は世界大会(ワールドカップ)で2022、24年と2大会連続準優勝でしたが、発祥国のキューバをはじめ、強化のスピードは目を見張るものがあります(世界ランキングはキューバ、台湾に次いで日本は3位)。そこで、高校、大学、プロと日本の野球界で活躍され、現役引退後は実業家、タレント、キャスターと幅広いジャンルで活動され、子どもたちのための野球場づくりにも尽力している斎藤さんに力を貸していただきたいと、お願いをしました。世界で勝つための選手強化。外からではなく、主体的な立場で、積極的にアドバイスをいただきながら、一緒になって普及活動、強化を進めていきたい。野球立国である日本が、世界におけるリーダー格になっていかないといけない」
斎藤氏は「Baseball5はこれからの野球の裾野を広げていく上で、新たなジャンルのスポーツとして、革命をもたらすことを確信しています」と話した。自身は北海道で子どもたちが楽しむための「野球場プロジェクト」に着手しており、Baseball5用のフィールドも計画しているという。「広さが必要ない。手軽にできる。北海道以外、東京にも造ることができるかもしれない」と、今後の展望を語った。また「引退してから3年。野球はやってきていないですが、なくはないと思います」と、現役復帰の可能性も示唆した。

5イニング制で1試合約30分のスピーディーさが特長。誰もが親しんだ「手打ち野球」が進化した競技である[写真=BBM]
山中会長は法大の左腕として「不滅の大記録」と言われる東京六大学歴代1位の48勝をマーク。斎藤氏は早大で通算31勝を挙げた。昭和と平成の神宮ヒーローが世代を超えて、野球界発展のため、強力タッグを組んでいく。
試合会場には全日本野球協会(BFJ)の加盟団体である日本野球連盟、日本学生野球協会、全日本軟式野球連盟、全日本女子野球連盟の関係者の姿も見られ、大会運営に携わっていた。BFJは日本におけるアマチュア野球の代表組織。今大会は日本ソフトボール協会が協賛し、NPBエンタープライズが特別協賛。プロとアマチュアが一体となった普及・強化活動であることが確認できた。
斎藤氏は「革命」の一つに、参加者を挙げた。
「現役の高校生(日本高等学校野球連盟に登録された部員)が出場している。他競技は良しとされなかった中で、BFJを含めて、関係者がご調整され、ここをクリアできたことは有意義なことだと思います。多くの世代、そのど真ん中にいる高校生が参加できることは、大きな一歩を踏み出したと思っている」
大会公式パンフレットにはこう書かれていた。
「遊びだから夢中になれる。夢中になるからもっと真剣に。真剣になれるからより愉しい」
誰でも、どこでも、手軽に楽しめる、生涯スポーツとしての特性が詰まっている「Baseball5」。今後の成長に期待が集まる。
文=岡本朋祐