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【大学野球】大切な「相棒」を携え一球に魂 立大OBの上重聡氏がレジェンド始球式

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大学2年秋にパーフェクト


立大OB・上重聡氏がレジェンド始球式を務めた[写真=田中慎一郎]


【5月3日】東京六大学リーグ戦

 大切な「相棒」を携え、一球に魂を込めた。

 立大-早大1回戦を前に、立大OBの上重聡氏がレジェンド始球式に登場した。ワインドアップから投じたボールは大きく外れた。

「力みまくってしまいました……。(早大の打者に)当ててはいけない、と。たたきつけてしまいましたが、楽しかったです。マウンドが堅くなっており、時代を感じました。当時は掘れていましたので……。マウンドからの風景は、そんなに変わらない。両サイドの応援も。当時は背中を押されましたので。あらためて立教のタテジマは格好良いな、と思いました。伝統があり、錚々たる先輩がいる中で始球式を務めさせていただき、光栄です」

 1998年夏の甲子園準々決勝。PL学園高のエースだった上重氏は「平成の怪物」と言われた松坂大輔氏(元西武ほか)を擁する横浜高と延長17回の名勝負を演じた(9対7で横浜高が勝利)。松坂氏は250球で完投し、上重氏は7回から二番手で11イニングを投げた。

 松坂氏はドラフト1位で西武に入団し、上重氏は4年後のプロ入りを目指して立大に進学した。ところが……。

「2年春にイップスになって、ピッチャーをクビになったんです。一度は外野に回り、2年秋にピッチャーに戻りました」

 2年秋、開幕カードの早大2回戦でリーグ戦初勝利。「相手の先発は和田毅(元ソフトバンク)でした」。同級生に投げ勝つと、勢いに乗った。東大2回戦では慶大・渡辺泰輔氏以来、リーグ史上2人目の完全試合を達成している。東大1回戦で先勝していた立大はこの日に勝利すれば、シーズン最終戦だった。ベンチは上重氏が6回まで投げ、7回以降は卒業する4年生3投手でリレーするプランを立てていた。だが、パーフェクト投球では、代えられない。上重氏は8回終了時点で、齋藤章児監督に降板を申し出たが「完全試合は、4年生のはなむけになる。感謝を表現してこい!!」と続投を指示された。上重氏は9回まで投げ切った。実はこの試合で使用していたのは、松坂から譲り受けたグラブだった。

「うれしかったですが、(4年生に)申し訳ない。複雑な思いで達成しました」

 同秋、上重氏は5勝を挙げた。

「完全試合で(再び)プロが見えてきた。ところが(以降は)『完全試合男』という十字架を背負って……。大学入学時は『松坂大輔と甲子園で対戦した男』という十字架でイップスになったんです。そこは跳ね除けましたが、2回目を跳ね除けるのは、エネルギーがいる。プレッシャーに負けてしまい、あきらめざるを得なかった。違う選択肢に舵を切りました」

誕生日にプレゼント


始球式で使用したグラブは、同級生の親友・松坂大輔氏からプレゼントされたものである[写真=BBM]


 上重氏がプロ野球選手の次に、将来の職業として見据えていたのはアナウンサー。「同級生もプロ野球に進んでいましたので」。野球との関わりを求めて、テレビ局の難関を突破した。昨年4月にフリーとなり、各方面で活躍中。今回のレジェンド始球式の打診を受けて、今回も松坂のグラブを持ち込んだ。それが、相棒である。現役最終年、上重氏の誕生日にプレゼントされたという。まさしく、親友とは一心同体なのである。

「松坂大輔のグラブをはめると、勇気をもらえるんです。今日も力をもらいましたが、(松坂の)コントロールを乱すという、悪いほうに出てしまいましたねえ……(苦笑)」

 試合前、後輩たちに「最後までやり抜くこと」のメッセージを伝えた。立大時代に2度の挫折を味わい、野球から離れたくなった際、両親から「やり抜きなさい!!」との言葉が支えになった。「プレッシャーを跳ね除けたからこそ、(完全試合は)野球の神様からのご褒美だと思っています」。やはり、百戦錬磨のレジェンドの言葉には重みがあった。

文=岡本朋祐

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