
連覇を目指したトヨタ自動車は三菱重工Westとの2回戦で敗退。同大会限りでの引退を表明していた40歳・佐竹は、応援スタンドへ向けて感謝を示した[写真=矢野寿明]
「250点です」。今夏の都市対抗を最後に、現役を引退したトヨタ自動車(豊田市)の40歳右腕・佐竹功年(早大)は自らの選手生活に100点を大きく超える点数を付けた。
佐竹は2006年にトヨタ自動車に入社し、16年の都市対抗では黒獅子旗を手にして橋戸賞を受賞。日本選手権は6度優勝し、侍ジャパン社会人代表として数々の国際大会でプレー。19年間にわたりトヨタ自動車で活躍し「ミスター社会人」と呼ばれた。今年1月に引退を表明し、最後の舞台に選んだのが都市対抗。マウンドに上がったのは勝負が懸かった大詰めの場面だった。沖縄電力(浦添市)との1回戦。同点の9回表二死一、三塁から救援すると、四球を出して満塁としたが次打者をチェンジアップでファーストゴロ。「今季はピンチで起用するとチームから言われていたので『ここで抑えることが僕の仕事だ』と思っていたのですがまっとうできてよかったです」。
すると、佐竹の熱投に刺激を受けたのか、その裏に高祖健輔(環太平洋大)のタイムリーが飛び出しサヨナラ。1対0で沖縄電力を下し、これが佐竹の最後の登板。そして、最後の白星となった。チームは2回戦で敗退。佐竹はブルペンで準備をしていたがスタジアムにその名が
コールされることはなかった。試合後の取材では言葉に詰まり、目頭を押さえる姿も見られたが「楽しいことも悔しいことも、たくさん経験させてもらいました。今は感謝の気持ちしかありません」と締めくくった。
トップチームの自覚を胸に
前年優勝チームとして都市対抗に推薦出場したトヨタ自動車。実は昨年の大会前から3連覇が目標と明言しており、藤原航平監督(中大)は今年も「社会人野球をリードする立場として3連覇を目指してチャレンジしたい」と話していた。トヨタ自動車と言えば、強力な投手陣を中心に守りからリズムを作る野球で22年秋の日本選手権と昨夏の都市対抗の二大大会を連覇。しかし、今季はエースの
嘉陽宗一郎(亜大)がオープン戦で打球が当たるアクシデントで戦線を離脱。そのため「ビハインドの状況からどうやって得点を返していくのかを意識してきました」と藤原監督。そこで重視したのが足を使った攻撃だ。「機動力でプレッシャーをかけ、バッティングにつなげていきました」(藤原監督)と5月のJABA九州大会は5試合で17盗塁。43得点を挙げる猛攻で優勝を飾った。
手応えをつかんで臨んだ都市対抗の初戦は苦しんだものの、約3カ月ぶりの公式戦登板の嘉陽が「変化球を増やして的を絞らせない投球ができました」と9回途中まで無失点の好投。佐竹の活躍もあって勝ち上がった。だが、三菱重工West(神戸市・高砂市)戦では盗塁を仕掛けるも「うまくいきませんでした。ベンチの責任です」と藤原監督。流れを引き寄せられずに終盤、一気に突き放されて、2対9で敗退。前年優勝チームは予選がないこともあり「波をつくれず、勢いがつかなかった」と指揮官は敗戦の弁を語った。
3連覇という大きな夢は2年目で途切れてしまったトヨタ自動車。だが、社会人野球をけん引するトップチームの自覚を胸に再起を図る。(取材・文=大平明)