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その先にあるもの

大谷翔平[投手/花巻東高]

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今夏に高校生史上最速となる160キロをたたき出した大谷翔平(花巻東高)。
日本か、それともメジャーか。
その決断には大きな注目が集まった。
18歳にして岐路に立たされた男は、自らの野球人生をどう設計しているのだろうか。



日米数球団が大谷獲得へ火花

 花巻東高の大谷翔平の決断によって、2012年ドラフト戦線はその動向を大きく左右される。

 9月19日にプロ志望届を提出。最速160キロ右腕は、周囲から大学・社会人の勧めもあったがプロ一本に絞った。NPBだけでなく、もう一つの目標がある。08年、新日本石油ENEOS・田澤純一(現レッドソックス)がメジャー挑戦を表明した会見を目にした中学2年生の大谷少年は、メジャーへの強いあこがれを抱き続けてきたのだ。

 日本か、メジャーか――。

 最終結論については、「五分五分」としながらも、その方向性は導き出していた。「仮にメジャーを表明すれば、日本の球団はほかの選手を獲得することができる。その決断は早い方がいいと思っています」

▲プロ志望届提出後に行ったインタビューでは「世界一の選手に」と、その目標を色紙にしたためた



 高校通算56本塁打。IBAF18U世界選手権で高校日本代表の四番を務めたスラッガーとしても「ドラフト1位」の評価を受けている。「打者としては高橋由伸(巨人)タイプで、三冠王を狙えるくらいの高素材」(北海道日本ハム山田正雄GM)と評されるほど、魅力が詰まっている。攻守の双方で可能性を秘めるが、佐々木洋監督と本人の意向により、プロへは「投手1本」で挑戦することを固めた。

 面談解禁となった翌日には、09年の同校出身・菊池雄星(現埼玉西武)の際にも熱視線を送っていたドジャースが一番乗りで学校を訪問。その後は「国内球団を優先させるように」という日本高野連からの指導を受け、9月末までに国内12球団への調査書返送を完了。そして10月1日のドジャースを皮切りにメジャー球団との面談がスタートし、2日のレンジャーズ、11日のレッドソックスの3球団と接触した。メジャー球団とは、環境や言葉の問題があることから大谷の両親も同席。獲得意思のあるオリオールズとは日程調整がつかなかったが、レンジャーズとの面談は3時間半。大谷サイド、メジャーの本気度が見て取れる。

一度決断を下せばその意志を貫き通す

 過去にNPBドラフト最上位候補の高校生が、NPBを経由しないで直接渡米したケースはない。“紳士協定”により、メジャー球団はドラフト指名漏れの選手を獲得するのが慣例だ。09年の菊池雄星も強いメジャー志向を持っていた。日米20球団との面談の後、「日本一のピッチャーになってから」とドラフト4日前に日本残留を表明。会見時の涙からは無念さがにじみ出ていた。

 田澤がメジャー挑戦を表明した際には、12球団の社長へ指名回避をお願いする旨のFAXを送信している。それを受けたNPBは指名拒否選手の日本球界復帰の制限について、大学生・社会人は退団後2年間、高校生は3年間という規定を設けた。

 仮に大谷がメジャー挑戦を決断してもドラフト会議では「対象選手」に変わりはない。大谷をドラフトで1位指名するチームは5、6球団とも言われている。強行指名に踏み切り、交渉権を獲得した球団は、来年3月31日まで交渉権が与えられる。関係者の話を総合すれば、大谷がメジャー表明をした場合は指名回避する公算が高い。リスクを覚悟してまでドラフト1位に穴を空けるわけにはいかないからだ。

 大谷は仮定と前置きした上でこう語っている。強行指名を受けた場合「その球団の方とお会いすると思いますが、基本的に決断を下した後は、その意志を貫き通したい気持ちでいます」と、決意は固いのだ。

 日本を選択すれば、海外FAを取得するまで最短で9年。高卒だと27歳でのメジャー挑戦となる。「25歳が肉体的ピークだと思うので、27歳では遅いのかなと思います。日本を選択した場合でも、25歳でメジャーに挑戦していたい」と見解を述べている。つまり、国内球団の場合、海外FAを待たず、ポスティングで海を渡る野望を抱いているのである。それだけメジャーへのあこがれが強いという証だ。「世界一の選手を目指す」

 プロ志望届を提出した翌日、小社の独占インタビューに応じた大谷は、こう力強く語った。メジャー絡みの質問には、目を輝かせ、やや語気が強くなっていたのを思い出す。



 いずれにせよ、10月14日に佐々木監督、両親と大谷本人による面談を設け、20年に一人の逸材の去就が、早ければ今週中にもはっきりする見込みである。日米どちらを選択するにしても、48年の歴史を刻むドラフトで「大谷ドラフト」として今後、語り継がれることになる。

大谷翔平のプロ入りまでの道筋
9.18 花巻東高でプロ志望表明会見
9.19 プロ志望届提出
9.20 日米のプロ球団との面談が解禁。ドジャースが一番乗りで花巻東高を訪問(本人は同席せず)
9.30 国内12球団から届いた調査書に記入を終え、各球団へ返送
10.1 本人同席の上でドジャースと面談
10.2 レンジャーズのボイドスカウト部長が花巻東高を訪問し、大谷の獲得意思を表明
10.11 レッドソックスと面談。面談を希望していたオリオールズは日程の都合がつかず断念
10.? 花巻東高で進路についての会見を予定

NPB入り表明の場合
10.25 「2012ドラフト会議supported by TOSHIBA」で指名を待つ
10~11月 交渉権を獲得した球団の指名あいさつ、仮契約
12月 入団発表
1月 新人合同自主トレ
2月 春季キャンプ
2月末 オープン戦開始
3.29 2013年シーズン開幕

MLB入り表明の場合
10.25 「2012ドラフト会議supported by TOSHIBA」でプロ12球団が指名回避
※仮に強行指名して交渉権を獲得した場合は3月31日まで交渉可能
3.31 強行指名した球団があった場合は、その球団による交渉権が消滅
6月 MLBドラフトで指名を待つ(指名球団との契約に合意すれば入団決定)
7月 指名球団のマイナー球団へ合流し、メジャー昇格を目指す

PROFILE
おおたに・しょうへい●1994年7月5日生まれ。岩手県出身。193cm85kg。
姉体小2年時に水沢リトルで野球を始める。
水沢南中時代は一関シニアに在籍し、岩手県選抜として全国大会出場。
花巻東高では1年秋からエース。2年夏、3年春と甲子園に出場し、3年夏の岩手県大会準決勝(対一関学院高)では高校生史上最速となる160キロをマークした。

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