2年連続の日本一に輝き、今季も首位を独走中のソフトバンクの強さが、際立っている。そんなチームを支えているのが、移籍&助っ人選手に加え、自前で育て上げた生え抜き選手たちだ。トリプルスリーの柳田悠岐、エース格に成長しつつある武田翔太もファームからのたたき上げ。そんな若鷹たちが育ったファームの本拠地が今年、福岡市から筑後市へと移転した。最新のIT技術が導入された巨大新施設を基地に、チームは世界一を目指すという。 取材・構成=坂本匠、写真=湯浅芳昭 
写真奥に見えるJR筑後船小屋駅からすぐ
理想の育成環境を整備

美術館のような近代的なデザインの選手寮には42人が宿泊可能。もちろん、クラブハウス、屋内練習場に直結している
まず、その規模に驚かされる。メーン球場であるタマホームスタジアム筑後に加え、来春3月の使用開始を目指すサブグラウンド、65メートル四方の屋内練習場にクラブハウス、選手寮、駐車場など、これらを合わせた施設の総面積は、約7万2000㎡に及ぶ。もちろん、これはファーム施設では12球団最大。

タマホームスタジアム筑後

65メートル四方(フィールド内は61メートル)の十分な広さを持つ屋内練習場
ではなぜ、約60億円もの総工費をかけ、これだけの規模の施設を、育成組織のために作ったのか。筑後事業推進室の柴田三郎室長が解説してくれた。
「世界一を目指す上で、まず“日本一中の日本一”を目指し、V9を超えるV10を成し遂げようと。そのためには自前でしっかりと選手を育てなければいけません。ファームの充実が重要だということです」

筑後事業推進室の柴田三郎室長
もともとは福岡県福岡市東区の、雁ノ巣球場をファーム本拠地としていたが、かねてより球場の老朽化、ナイトゲームができない環境面、西戸崎にある選手寮から距離がある立地面など、問題は山積していた。2005年にソフトバンク誕生直後からすでに移転計画は検討されており、11年の三軍制導入を機に本格化、13年夏には用地の公募を行っている。これに対し5県33自治体が立候補、検討の末に今回の福岡県筑後市に決定したわけだ。国有地に市の建物が立つなど、複雑な権利関係がネックとなった雁ノ巣とは異なり、筑後は市が施設用地を20年間無償貸与。管理と運営は球団主導で、理想の育成環境の整備が可能となった。

外野天然芝を養生中のサブグラウンドは、来春、使用可能に
リハビリとケガ予防

施設内には24時間稼働の32台のカメラを設置。選手個人のiPad(当然、全選手に支給!)に配信されるばかりか、その場のテレビでもチェックが可能
設備もため息が出るほどだ。最新のIT技術を取り入れた屋内練習場、クラブハウスの充実ぶりには目を見張る。随所に見られる特徴的な工夫を見ていこう。まずは施設内に32台設置されている24時間稼働のカメラだ。61メートル角のフィールド内打席、4レーンのマシン用打席、6レーンのブルペンにもそれぞれ設置され、選手やコーチは各個人に支給されたiPadはもちろん、すぐ横に置かれた大型モニターで即座に映像をチェックできる。また、マシン用打席は2打席がオートメーション化されており、手元のボタンで操作が可能だ。これにより1人でも練習ができ、「夜10時半まで打ち込んでいる」と柴田室長も目を細める。

オートメーションの打撃マシン2台は手元のボタンですべて操作できるため、1人でも練習可能。まるでバッティングセンター
特に力を入れているのが「リハビリとケガ予防」だという。リハビリ専門スタッフが4人、巡回ながら専門コーチ3人を配置。リハビリ用の流れるプール『スイメックス』は幅6メートル×5メートルと国内最大級で、床にローラーが付いており、プール内を歩いてのトレーニングが可能だ。「ケガをしてもすぐに復帰できるようなサポート環境を整えています、これは12球団で一番」と柴田室長も胸を張る。充実のサポート体制により、選手もケガを恐れることなく思い切り練習に打ち込めるというわけだ。

リハビリ用の流れるプール「スイメックス」。底にローラーが付いており、プール内を歩いてトレーニングすることが可能だ

十分な機材が整えられたトレーニングルーム。ウエート1つひとつに球団マークが入っているのもこだわりのポイント
なお、メーン球場はヤフオクドームと同規格(両翼100メートル、中堅122メートル)で、軍事用に開発されたレーダーシステム『トラックマン』(屋内ブルペンにもあり)も完備。投手の球速、球の回転数、回転角度などが計測でき、選手のレベルアップに一役買っている。

ブルペンは6レーンを完備し各レーン2台のカメラでサポート。「トラックマン」が設置されたレーンも

バックネット裏にはヤフオクドームに設置されているものと同様の『トラックマン』を設置。軍事用に開発されたレーダーシステムで、選手のさまざまなデータを収集する
またフィールドシートを設置し、300台の一般駐車スペースを設けるなど、ファン視点に立った「1日楽しめるボールパーク」のコンセプトも。その甲斐あって、“ホークス筑後ファンクラブ”は早くも会員7000人を突破、3113人収容のスタンドは二軍公式戦開催時には満員となることもある。今後も地元・筑後市と手を携え地域活性に貢献しつつ、日本一のファーム施設が、最強軍団を強力にバックアップしていくことだろう。

一、三塁ファウルエリアには、ファーム球場には珍しいフィールドシートが
【番外編】プチ球場グルメ!!地元の味をご堪能あれ
球場内コンコースにも売店はあるが、試合開催日にはメーン球場入口前の広場に屋台が並ぶ。筑後市内に鹿児島豚、薩摩地鶏を使ったしゃぶしゃぶ・すきやきのお店を構える『六白』もその1つ。写真は鹿児島黒豚を使ったカレーパンと、お店で大人気のから揚げ(塩味&しょうゆ味)。カレーライスやカレーうどんがラインアップに並ぶこともあり、球場に訪れたファンを楽しませている。