
甲子園に集まるファン。一人ひとりにドラマがある
新潟に住む私の伯父は、大の
阪神ファンだった。ファンクラブにも入り、気の強い伯母にあきれられながら、部屋にオフィシャルカレンダーを貼り、ファン以外には価値の分からないオリジナルグッズを並べていた。滅多にない新潟での阪神戦開催はもちろん、仲間たちと連れ立って東京ドームや甲子園に遠征し、黄色と黒のハッピを着て応援。新潟県出身の
猪俣隆が1987年に阪神入りした際は、後援会にも入っている。「なぜ新潟にそんな熱心な阪神ファンが」と不思議に思う人がいるかもしれないが、実は、かなり多かった。ただ、7割方が阪神ファンというより、アンチ
巨人。極論かもしれないが、身近に球団がある名古屋、大阪、兵庫、
広島、福岡以外の昭和男、特に昭和30年代以前に生まれた男たちは、たいていが、巨人ファンかアンチ巨人ファンだった(東京は地方出身者の集まり。川崎時代の大洋は、それほど愛されてなかった、と勝手に思っている)。そしてアンチの半数以上が、V9巨人の最大のライバルと言われたタイガースファンを名乗り、ついでに「巨人は嫌いだけど、
長嶋茂雄だけはなあ……」などと言っていた。
私の父親もそうだ。枝豆を食べ、キリンのラガービールを飲む晩酌タイムで、ブラウン管に映るのは、ほぼ巨人戦。タイガースファンと公言しながらも、巨人を語る口調は子ども心にも分かるくらい優しかった。
弁護するわけではないが、テレビは巨人戦がほとんど。夜のニュースでもほかの試合の映像が流れることはまずないし、地方ではスポーツ新聞を取っている家などまずない。連日の巨人戦で洗脳されているようなものだ。特に1970年代中盤まで、野球好きの選択肢は2つ。水戸黄門のように最後は必ず勝つ、V9巨人ファンになるか、日本人特有の判官びいき、あるいは単にヘソ曲がりな性格ゆえに、他チームのファンになるかだ(私の父親はたぶん後者)。
子どもたちもそうだった。『巨人の星』では、主人公・星
飛雄馬より、阪神のライバル・花形満がはるかに・・・
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