昨年は春も夏も甲子園で笑って泣いて、2年生で一人だけ侍ジャパンU-18代表入り。183センチの84キロで最速は150キロ。星稜高のエース右腕、奥川恭伸はそれだけでも十分なスケール感なのに外堀を埋めつつ核心に迫っていくと、見上げるような輪郭が浮かび上がってくる。 取材・文=大久保克哉 写真=桜井ひとし もはや同世代に敵なし。奪三振ショーを連発
「こういうヤツがプロ選手になるんだな」とは、小4からバッテリーを組んでいる捕手・
山瀬慎之助の、学童時代の奥川恭伸評。その見立てが現実味を帯びてきた今日も、奥川には驚きを超えた畏怖の念のようなものがついて回っているという。
彼らの息の合ったサイン交換は、昨年の甲子園でもお馴染(なじ)みに。奥川は投球モーションに入りながらサインを見ているフシがあり、投球はハイテンポ。でも時折り、何度も急に首を振ることがある。
バッテリーのそうしたやりとりは、打者を惑わせる意図で行うのが一般的。ところが、彼らの場合は単なるアクシデントだという。
「ああいうときは自分が間違えて首を振ってしまって、元のサインに戻るのを待っているだけなんです」と、苦笑いの奥川がこう続けた。「『首を振れ!』という捕手のサインがあるのも、U-18代表(昨年9月のアジア選手権)に行って初めて知ったくらいですから」。
マスクをかぶる山瀬も、小手先で駆け引きをした試しがないと語る。
「そういう作戦を練ろうという発想がまず、自分たちにはなかったですね。配球も基本は奥川主体、投げたい球を投げさせてやろうというのが第一で、それでも打たれないのが奥川なので」
現に、新チームの日本一を決める昨秋の神宮大会は奪三振ショーだった。常時140キロ台の速球や130キロ台のフォークボールに、打者のバットは面白いように空転。その前の北信越大会でも10者連続三振や、啓新高(福井)との決勝での延長15回完投(2対2引き分け再試合)で話題に。両大会の計7試合で48回1/3を投げて奪三振が65、四死球3で防御率は0.00だった。
「まだまだ自分より上がいると思っています。ガンガンいくのも今だからできることであって、去年のU-18代表で対戦した大学生は格が違って、そういうわけにもいかなかったですから(明大とのオープン戦で先発も5回4失点)」
昨夏の甲子園で150キロを投げ、2年生で一人だけ高校ジャパンに選ばれた奥川は、
根尾昂(大阪桐蔭高→
中日ドラフト1位)ら上級生のトップ選手たちに刺激や学びを得たばかりか、「学年」や「高校生」の枠にとらわれない視野を獲得していた。
それこそ、侍ジャパン常設化のひとつの狙いであり、今年9月のU-18アジア選手権では奥川が周囲や後進を感化させることになるのだろう。

踏み出す左足の内旋が特徴的なフォームは、力感がないのに球威は満点。「自分は目いっぱいに投げているので、言われるほどリラックスはできてないです」/撮影=山口高明
泣いて笑った中学時代。3年夏に胴上げ投手に
さて、星稜高の新3年生には、中学軟式の元V碗が2人いることをご存じだろうか。1人は付属の星稜中のエースとして全日本少年大会を制した寺沢孝多(昨年は背番号18で甲子園に春夏出場)。そしてもう1人が、同じ石川県のかほく市立宇ノ気(うのけ)中のエースとして全国中学校大会(全中)を制した奥川だ。
全国には約8000の中学軟式野球部があり、その頂点を決めるのが全中。全日本少年大会は野球部のほか、クラブチームと地域選抜チームにも門戸が開かれている。
両大会の重複出場はできないが、予選突破はいずれも至難。そして実は、寺沢の星稜中と奥川の宇ノ気中は、全日本少年大会の予選にあたる県大会の準決勝で対戦し、星稜中が3対1で勝利。敗れた宇ノ気中の奥川は涙し、全中へと目標を切り替えてその出場と優勝を遂げたのだった。
当時は「頭のいい子」とエースを評した宇ノ気中の三浦隆則監督は、今の彼をこう語る。「人柄は中学のままですよ。去年のセンバツは自分でサヨナラヒットを打って笑って泣いて、負けてまた泣いて。とにかく負けず嫌いで、飾らない謙虚な子」。
実はその三浦監督も中・高と星稜でプレーし、中3で日本一に。ただし、野球部員の進路には介在をしておらず、奥川も自ら星稜高の門をたたいたという。「星稜からは大学やプロへ多くの先輩方が進まれていて、野球部は自主性重視ですごく自分に合うなと思いました」(奥川)。
今や寺沢にも水をあけたが、ともに切磋琢磨しながら日本一を目指す日々。目下の理想は、無意識でも150キロが出せるレベルだという。
「神宮大会は決勝(1対2から救援登板)で負けてしまったので、センバツ(出場当確)ではしっかりと頂点をとれるように、チームに貢献できる投球をしたいです」
中学に続く高校日本一、その瞬間はまたチャーミングな笑顔が弾けるのか、それとも感涙にむせぶか。
「感情が出るのは良いことでもあると思うんですけど、後からテレビで見たりすると少し恥ずかしい」
魅惑の17歳は、はにかんだように白い歯をのぞかせた。
PROFILE おくがわ・やすのぶ●2001年4月16日生まれ、石川県かほく市出身。183cm84kg。右投右打。宇ノ気小2年から宇ノ気ブルーサンダーで野球を始め、4年時から現在まで捕手・山瀬慎之助とバッテリーを組んでいる。6年時に県準優勝で北信越大会に出場、宇ノ気中の野球部で3年夏に全国制覇し、星稜高では1年春の北信越大会からベンチ入り。同秋から主戦格となり、2年の春(8強)と夏(2回戦)に甲子園出場、昨秋の神宮大会で準優勝。昨夏は2年生で唯一、侍ジャパンU-18代表入りしてアジア選手権で銅メダル。最速は2年夏の甲子園で記録した150キロ。