5、4、2、2──。2018年の監督就任以降、着実にリーグ順位を上げてきたロッテ・井口資仁監督はブレることなく目指す野球を貫き続ける。シーズン最終盤まで優勝を争った昨季の経験と悔しさを財産に手応えを得ている今チーム。鋭い眼光の先には“頂点”の二文字しか映っていない。ロッテ特集を組んだ『週刊ベースボール』3月21日号(3月9日発売)に掲載された指揮官のインタビューを前後編に分けてお届けする。 取材・構成=鶴田成秀 写真=湯浅芳昭、BBM 【後編】はこちら 悲願の優勝へ手ごたえをつかんでいるロッテ・井口監督
悔しさと自信があるからこそ
1点にこだわる執念は試合巧者ぶりで見せてきた。昨季は開幕5連敗からのスタートも最終盤まで優勝争いを演じてリーグ2位。自信を得た一方で指揮官は、足りない部分にも目を向ける。 ――就任5年目を迎え、チームの成長に手応えも感じているのではないですか。
井口 毎年1歩ずつではありますけど、しっかりとチームとして形になってきているなと感じていますよ。ようやく貯金をしっかり作れるチームになってきましたし、2年連続で優勝争いに絡めたのは、選手たちも良い経験になったはず。特に昨年のシーズンは今年に生きてくる。自分たちの戦い方を感じられたシーズンだったと思いますからね。
――昨季は141試合目まで優勝を争いました。連日の緊迫した戦いを経験したこともプラスになるのでは。
井口 そうですね。一昨年は終わってみれば(優勝した
ソフトバンクに)10ゲーム差以上離されましたから。ゲーム差が離れての2位だったので、選手たちも2位という実感はなかったと思うんです。でも、昨年は最後まで優勝争いができた。そこは自信にもなったと思うんです。ただ、優勝を逃したので当然、悔しさもあります。自信と悔しさ。この両方があるからこそ選手たちも、われわれ首脳陣も、今年にかける思いが強い。ファンの方たちも同じ思いでしょう。その思いを胸に、足りないところを補うために、キャンプからやってきました。
――足りない部分ですか。
井口 いろいろありますが、一番はチームプレー、サインプレーなど細かい部分。そこをキャンプで磨き、勝つための野球を徹底しようということです。
掲げる今季のスローガンが思いのすべて。ナインも共通認識の中、キャンプで汗を流した
――昨季のスローガン『この1点を、つかみ取る。』を経て、今年は『頂点を、つかむ。』。チームの段階は、スローガンに集約されている気もします。
井口 勝つために1点を守り、1点を取る。それが形となり、今年は優勝を目指すわけですからね。そのためには、当然、1点にこだわり、失点を減らし、得点を奪うことは昨年と変わらない。1点をどう取るというのは、僕が就任したときから言ってきたこと。ディフェンスにしても、キャンプからピッチャーを含めた内外野の連係というのを重点的にやりましたし、キャンプに入る前から選手たちに「どれだけチームに貢献できるか」という話はしたんです。チームをしっかり回していく。1つになって戦うことがポイントというのは変わりません。
――“束になる”は、常に監督が口にすることです。
井口 はい。選手たちは昨年も束になって戦ってくれました。ただ、もっと大きな束になっていきたいとも思うんです。それには個人成績も大事。一人ひとりが成績を残すことで、チームとしてもより大きな束になっていくと思うので。
後半だけではダメ
――では優勝するためのキーマンとなり得る選手は頭に浮かんでいますか。
井口 それは1人ではなく“先発陣”でしょう。昨年、投球回、被本塁打ともリーグでも下のほうの成績と、先発ローテが1年間、思うように組めませんでしたから。ケガ人が出たこともありましたが、今年は、しっかり先発ローテを組んでいけるように。どうやって回していくかが大事になると思っています。
――昨季後半戦からは
小島和哉投手を筆頭に先発陣が安定と光明は見えています。
井口 いやいや、後半だけではダメ。1年間続いてもらわないと困ります。昨年は前半戦の先発陣が不安定だったことが後半戦で中継ぎ陣に響いてしまいましたからね。1年間、安定してもらわないと。前半に良くても後半に悪かったらダメ。1年の間、ローテの軸となる選手が4、5人いれば後ろの負担もだいぶ減ると思うので。
――今季は小島和投手、
佐々木朗希投手が軸になると見る人は多いですが。
井口 小島は昨年1年間、しっかりローテに入ってくれましたから体力的なことに関しては問題ないと思っています。ただ、朗希は、まだ1年間ローテで回ったことがないので。そこはわれわれがしっかりと見ながら、回せるようにしていきたい。それ以外でも、
石川歩、
美馬学、
ロメロあたりが中心になって回ってくれると、週に1回、若い選手が投げられるようになる。そうなればバリエーションが増すので、軸になる選手は多いほどいいわけです。
今季は延長12回制に戻る方針とあって、廣畑[右]、八木の両新人右腕がロング救援をこなせるのも好材料だ
――今年は延長12回制に戻る方針。先発が安定し、長い回を投げれば、救援陣にも好影響を及ぼしていくわけですね。
井口 はい。それに、昨年は「引き分けも勝ちのうち」みたいなところはあったので、同点でも勝ちパターンを投入したりしましたが、今年は延長12回。中ロング(ロング救援)を増やさないといけないかなとも思っているんです。その中でルーキーの
廣畑敦也、
八木彬、
小沼健太(育成)らがハツラツとした動きを見せてくれているのは頼もしいこと。彼らが加われば昨年の7、8、9回の投手(
国吉佑樹、
佐々木千隼、
益田直也)の負担も減る。彼ら(勝ち継投の投手)にはシーズンを完走してもらわないと困りますからね。
――となれば、今季も連投は原則2連投までは変わらないのでしょうか。
井口 後半戦に入るまではね。これも昨年と変わりませんよ。3連投を回避するのは1年間を考えてのこと。だから、先に挙げた廣畑、八木が加わり、中継ぎの幅が広がってくれば、回しやすくなる。バリエーションが増えれば、連投も回避しやすいですから。
<「後編」に続く>
PROFILE いぐち・ただひと●1974年12月4日生まれ。東京都出身。178cm91kg。右投右打。国学院久我山高から青学大を経て97年ドラフト1位でダイエー(現ソフトバンク)に入団。攻守走三拍子がそろった内野手として3度のリーグ優勝に貢献。2005年からホワイトソックスに移籍し、同年世界一に輝く。09年にロッテへ移籍し、10年の日本一に貢献、13年には日米通算2000安打を達成。17年限りで現役を引退してロッテの監督に就任し、今季で5年目を迎える。