キャリアハイの46本塁打を記録した21年と比較し、今季の大谷の変化と進化はどこにあるのか。MLB全体の打撃の傾向を俯瞰した上で、データ分析のスペシャリストが解き明かしていく。 文=森本崚太 構成=杉浦多夢 写真=Getty Images ※日付は現地時間、成績・情報は現地時間7月11日現在 <INTRODUCTION>フライボール革命以降のMLBの打撃の変遷
大谷翔平選手の2023年の打撃を解説する前に、MLB全体における近年の打撃の傾向を説明しておきましょう。
MLBの打撃成績をさかのぼると15、16年を境に大きな変化がありました。「フライボール革命」です。15年にすべてのMLBの本拠地球場にデータ解析ツールであるスタットキャストが導入され、その15年のデータを分析することにより16年に新たな指標である「バレルゾーン」が登場しました。バレルゾーンとは長打が出やすい打球の「打球速度と打球角度」を組み合わせた指標です。スタットキャストによるビッグデータから、長打を生むための有効な打球速度、打球角度が解析されたのです。究極の長打である本塁打はもっとも確実に得点が入るプレーですから、MLBの打者たちは動作解析を含めたデータを活用しながら、バレルゾーンの打球を飛ばすことを目指して進化していきました。
その結果、MLBにおける本塁打数は急増していき、17年には合計6000本塁打の大台に到達。19年には史上最多の6776本塁打を記録し、長打率の平均も.435まで高まっていきました。一方、長打を狙うコストとして三振数も増加しました。「フライボール革命」はスタットキャストによってもたらされた最初の変革であり、MLBの歴史の中でも大きなインパクトを与えるものになったのです。
ただ、スタットキャストの導入による恩恵を受けたのは打者だけではありません。投手も動作解析やボールの質の研究が進んだことで、打者に遅れて進化していきました。打者の分析も高度なものになり、フライボール対策が進んでいき、変化球のレベルも各段にアップ。その結果、「スイーパー」という新たな球種も生まれました。すると新型コロナ禍によって短縮シーズンとなった20年ころから一気に本塁打数は減少し、長打率も低下。MLBもインプレーを増やそうといろいろな手を施したこともあり、投手の時代への揺れ戻しが起こったのです。
MLBの歴史を振り返っても、こうした「打高投低」と「投高打低」のせめぎ合いは起こってきましたが、これほど急激な揺れ戻しが起こったことはなかったのではないでしょうか。ただ・・・
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