今年も強い。落ち着いてキャンプをしている。などの評価が多かった2023年度のチャンピオン・阪神タイガース。来年90周年を迎える伝統球団にして人気チームでありながら、実はリーグ優勝、日本一とも「連覇」の経験がない。球団初の快挙を達成するためには、チームの底上げが必要だ。そこで今回の阪神特集は、さまざまな意味を込めて「CHALLENGE」をテーマに各選手、チームの向かうべき姿へ迫っていく。 文=高原寿夫(日刊スポーツ) 岡田彰布監督率いる阪神は2024年、球団史上初となる2年連続優勝、連覇へ向かう。この11月に67歳になる岡田監督、連覇に成功すれば最高齢監督としての優勝を更新する。人気の面では常に12球団NO.1の地位を誇る阪神が、球団初のチャレンジに向かうシーズンだ。
「チャレンジ」の言葉を使ったし、実際そうなのだが客観的に見れば5球団、あるいは日本一になったので11球団が「打倒阪神」で向かってくるシーズンでもある。ボクシングで言えばディフェンディング・チャンピオンの阪神は防衛戦に臨む形だ。
事実、オフからキャンプにかけての岡田監督は王者の風格のようなものを漂わせた。1月の新人自主トレーニングを前にしたあいさつでも、キャンプインし、虎番記者たちを前にした談話でもそれは同じだ。
「ゆっくりやれ。ケガが怖い」。「そんなん去年で大体、分かってるからな」。見方によっては余裕すら感じさせる様子である。
長い評論家時代、外部から見ていてチームの中に入り、手探りだった昨年の始まりに比べ、チームの戦力、そして選手たちの性格も含め、しっかりと理解。その上で勝利を収めただけに、焦る必要はないということかもしれない。
だが、もちろん「去年のままでは勝てない」ということは理解している。これは闘将・
星野仙一がよく言っていたことだが、この世界の常識でもある。「現状維持」は後退だ。そんな岡田監督はキャンプ中、スポーツ紙の取材で、
広島OBの
緒方孝市氏と対談した。
緒方氏といえば
巨人以外は達成していないリーグ3連覇を、広島監督として実現させた人物。そこで連覇が話題になったとき、岡田監督の口からは「去年のままじゃ勝てんよ。そら勝てん」という言葉が出た。
一見、阪神は、まさに“去年のまま”である。コーチ陣が異例の全員留任。選手も主力はほとんど顔ぶれが変わっていない。補強の代表格とされる外国人選手も新たに加入する野手はゼロ。投手でゲラを加えただけだ。FA、トレードもここまでまったくない。
これで連覇に届くのか。それ以前にチームに変化は起こるのだろうか。そんな見方もできる中で、岡田監督はそれを生え抜きの若手育成という方向で探っている。
「井上(
井上広大)がエエんよ。前川(
前川右京)も打球に角度がついてきたし。野口(
野口恭佑)もエエな」。野手ではポンポンと若手選手の名前が出る。さらにキャンプ中から、ルーキー・
福島圭音が俊足、守備、さらにシュアな打撃で目立った。「使えるやろ。一軍で」。指揮官はそう目を細めたのである。
そもそも昨季、クリーンアップを打っていた
佐藤輝明、
森下翔太にしてもまだ若い。「そんなに打たんやろ」と岡田監督は笑ったこともあるが、そうやって見ると、選手層が一気に厚くなっていることが分かる。
投手にしても同じだ。すでに
門別啓人は先発ローテーションの一角を占めそうな勢いだし、ブルペンでも
岡留英貴の名前が注目されている。
広島3連覇を果たしたとき、緒方氏は
鈴木誠也を四番に据え、ブルペンを整えてチームを形作っていったが岡田監督も
大山悠輔を主砲に固定することで周囲を変化させ、固めた。理想的とも言えるチーム作りを行っているのかもしれない。
実際、広島がそうだったように生え抜きの若い選手が次々に出てくるというのはチームが強くなるときだ。連覇、さらに3連覇以上へ。猛虎が「常勝軍団」になるときが訪れているのかもしれない。(文中敬称略)

連覇へ、現有戦力の底上げと若手の育成を推し進めている岡田監督。常勝軍団の礎を築こうとしている