週刊ベースボールONLINE

2024ドラフト特集

都市対抗での飛躍を期す社会人選手のポテンシャル 「一発勝負」から見た可能性

 

第95回都市対抗野球大会は7月19日、東京ドームで開幕する。1回戦から決勝まで31試合、12日間にわたる熱戦が展開。NPBスカウトは負ければ終わりのスリリングな一戦を、貴重な資料の場として視察する。注目選手をピックアップしていく。
文=中里浩章 写真=BBM

日本生命・石伊[左]は守りが高く評価され、NTT東日本・野口[右]は「打てる捕手」として注目されている


大卒2年目捕手2人に要注目


 今秋のドラフト候補という観点で社会人球界を見渡すと、今年は昨年のENEOS・度会隆輝(現DeNA)のような飛び抜けたスターはいない。例年以上に大学生が注目を浴び、高校生の有望株も名を上げてきた現状も踏まえれば、指名はやはり少数精鋭だろう。そんな中、即戦力として人気を集めるのは日本生命・石伊雄太(近大工学部)とNTT東日本・野口泰司(名城大)の捕手2人。都市対抗でも躍動しそうだ。

 石伊は1年目から正捕手として経験を積んできた。昨年の二大大会では予選から本大会まですべて先発マスクをかぶり、今年の都市対抗予選では近畿第1代表獲得。最大の魅力は二塁送球1秒8台をコンスタントにマークする強肩とフットワークの良さだが、リード面にも磨きが掛かっている。課題だった打撃も福留孝介特別コーチ(元中日ほか)の助言を受けながら着実に成長。昨年は都市対抗1回戦で2安打、4強入りした日本選手権では本塁打も放つなど存在感は十分。今季はさらにスイングが力強くなっており、近畿の第1代表決定戦では9回に決勝タイムリーと勝負強さも見せている。

 一方、野口は「打てる捕手」として評価が高い。指名打者での出場が多かった昨年はチームが二大大会出場を逃し、自身も都市対抗予選で一時スタメン落ちするなど苦しんだ印象。ただ新人ながら中軸を任され、公式戦で3本塁打13打点と能力の高さは見せていた。今季は春先から捕手として出場を重ねると、JABA静岡大会で優勝に貢献。さらに都市対抗予選では「四番・捕手」を務め、全3試合で第1打席に適時二塁打を放つなど11打数5安打4打点。投手陣もしっかりと束ね、東京第1代表へと導いている。二塁送球は驚異の1秒7台が出ることもあり、強肩強打ぶりは出色。U-23代表候補にも選出され、ブレイクは必至か。

ゲームメークに長けた好投手


 この2人に続き、ポテンシャルを秘めた投手たちも「候補」となる。都市対抗出場組から注目を挙げると、まずは三菱重工Westの右腕勢。投手陣の中心を担う鷲尾昂哉(関大)は角度のある最速150キロのストレートとフォークが大きな武器で、今季は平均球速も上がっている。昨秋の日本選手権1回戦で先発を経験した西隼人(関学大)は空振りを取れる最速152キロの真っすぐが持ち味。また、すでに指名解禁済だが入社3年目のエース・竹田祐(明大)は各球種の質が高く、昨年に引き続きスカウトの熱視線が注がれている。3人いずれも昨年の全国舞台では失点して敗れているだけに、リベンジへの想いも強い。

三菱重工Westは鷲尾[左]、西[中]の大卒2年目の解禁年を迎え、3年目の竹田[右]も調子を上げている


 NTT西日本の左腕・伊原陵人(大商大)は身長170cmと小柄ながら、140キロ台後半の速球とカットボールのキレ味が抜群。緩急を織り交ぜたゲームメークも巧みで、先発もリリーフもこなせる。

 都市対抗予選で輝いたのは「九州No.1右腕」との呼び声高いKMGホールディングスの木下里都(福岡大)。九州二次予選では全3試合に先発し、最速155キロの直球と140キロ前後のカットボールを軸に、23回を自責点2と圧巻の投球を見せた。大学1年時に投手転向と経験も浅く、まだまだ伸びそうだ。

NTT西日本の左腕・伊原[左]は試合を作れ、KMGホールディングス・木下[右]は「九州ナンバーワン」の呼び声。


 衝撃度で言えば、東海二次予選で6試合中4試合に先発し27回で13安打32奪三振、防御率0.00の西濃運輸の4年目左腕・吉田聖弥(伊万里農林高)も引けを取らない。伸びのある140キロ台後半の速球、得意のチェンジアップはともに一級品。昨秋の日本選手権での先発も糧にし、一気に台頭してきた。

 高卒3年目ではヤマハの沢山優介(掛川西高)とNTT東日本の寺嶋大希(愛工大名電高)が好評だ。長身左腕の沢山は高い位置から腕を縦に振り下ろし、140キロ台のストレートの球威とチェンジアップで打者を翻弄。実戦派右腕の寺嶋はしなやかな腕の振りが特長で、回転数の多い直球と多彩な変化球で仕留める。

 都市対抗連覇を狙うトヨタ自動車には左の増居翔太(慶大)、右の加藤泰靖(上武大)がいる。増居は昨年から先発の一角に食い込みながら二大大会では未登板。今季は九州大会MVPに輝くなどキレもコーナーワークも健在で、大舞台でのマウンドさばきに期待だ。加藤は大学時代に大物候補と騒がれるもプロ志望届は提出せず。入社2年目で登板機会を増やしており、今夏は150キロ超の速球で押す姿が見られるか。ENEOSの東山玲士(同大)、ヤマハの有本雄大(東北福祉大)、エイジェックの河北将太(東洋大)、三菱自動車岡崎の3年目・笠井建吾(慶大)はいずれも力のある150キロ前後の速球が持ち味。東邦ガスの先発左腕・大石晨慈(近大)はキレ味が鋭い。

高卒3年目のNTT東日本・寺嶋[左]、大卒2年目の左腕のトヨタ自動車・増居[中]、ENEOS・東山[右]も総合力が高い


人生を変える「補強組」


 さらに、魅力があふれているのは補強組だ。思い切りの良さと変化球が売りのセガサミー左腕・荘司宏太(国士大)は東京ガス、2022年まで四国IL・香川で活躍したJR四国の152キロ右腕・近藤壱来(鳴門渦潮高)は四国銀行へ補強。昨年にアジア・ウインターリーグを経験したTDKの佐藤亜(仙台大)は日本製紙石巻、巨人西舘勇陽を弟に持つ七十七銀行の西舘洸希(筑波大)はJR東日本東北でプレーする。エイジェック補強の茨城トヨペット・中島悠貴(日大)は150キロ左腕。JR西日本に補強される日鉄ステンレス・江原雅裕(国学大)も好素材だ。デニー友利氏(現巨人国際スカウト)を父に持つテイ・エステックの4年目・友利アレン(東北福祉大)もJFE東日本で登板機会を得られれば面白い。

 さて、野手はどうか。内野では東芝で打線の軸となる齊藤大輝(法大)が補強先の三菱重工Eastでも機能しそう。NTT西日本のリードオフマンに定着した水島滉陽(東京情報大)は遊撃守備でも安定感を高めている。本職は捕手だが一塁を守るJFE西日本・土井克也(神奈川大)の打撃は破壊力満点。名門・ENEOSで主軸の山田陸人(明大)、西関東二次予選で2発を放った三菱East・山中稜真(青学大)、ミキハウス補強の大阪ガス・高波寛生(関学大)も強打者だ。高校、大学と華やかな舞台で活躍してきた日本生命・山田健太(立大)は東京ドームでも強烈な印象を与えるか。外野で挙げたいのは俊足好守の東京ガス・中尾勇介(日大)である。出場できれば東海理化・福本綺羅(明石商高)のプレーからも目が離せない。

三菱重工East・山中[左]はパンチ力があり、日本生命・山田[右]も大卒2年目の解禁年に勝負をかける

特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング